第27話
27話
『葵音さんへ
この日記を読んでいると言う事は、ずっと待っていた事故が起こってしまったのでしょう。葵音さんは無事ですか?怪我してませんか?私は、あなたを守れたでしょうか?それが心配でなりません。
きっと、葵音さんは気づいているのだと思います。私の秘密を。どうして、葵音さんを助けられたのかを。
私は星詠み人と呼ばれる平星の家系の一人です。星詠み人は、選んだただ一人の未来を詠む事が出来るのです。私の家ではそれをお金に変えて暮らしてきました。
代々、政治家や財閥一家などの未来を詠んで、その人の1番危険が迫る日を伝えてきました。事故や病気、昔ならば暗殺などがあったので、代々助けてきた家系は沢山あります。その星詠み人が未来を見る事で、莫大なお金が入ってくるのです。
けれど、私はそれが嫌でした。幼い頃から選んだ人以外の未来を見るなと言われてきました。だけれど、お金のために大好きな星の力を使いたくない。これはきっと自分の大切な人を守るためにあるものだと思っていたのです。
そこで私は星詠みの力を、未来に会うであろう運命の人を、最愛の相手を選びました。顔も見たこともない、まだ出会ってもいない人だから成功するかわからなかったんですけど…………。
そうしたら、星が見せてくれた事。それは、葵音さんと出会った交差点で、血塗れに倒れるあなたと、真っ白いワンピースを着た自分がいました。そして、倒れた葵音さんを抱き寄せて私は泣いていました。白いワンピースはどんどん血塗れになっていったんです。
私が見たのはこれだけでした。
葵音さんの顔は、出会っていないからか見えなくて、どんな人かわかりませんでした。見えたのは、胸にあった特徴的で繊細な月のネックレス、そして交差点の名前だけ………。
星詠みの力を使ってしまった私は、家の者達から意味嫌われました。
入るはずだったお金を返すことになり、高校のときからバイトをして、社会人になってからもほとんどを平星家に入れ、夜もこっそり仕事をして、やっとほとんどを払い終わりました。
あと少しと言うところで、よく星詠みの力なのか、事故の映像を見る事が多くなったのです。
だから、家の人に「必ずお金は支払う。」と、書いて家を出てきました。
きっと事故が近いのだろう………そう思ったのです。』
そこまで読んでから、葵音は少しだけ手紙から視線を逸らして、呆然とした。
星詠み人。
未来を詠む力。
未来を売って生きていくことを強いられた黒葉。
今まで知るはずもなかった言葉や能力を知り、葵音の頭はパンクしそうになっていた。
少し頭の中を整理してから、考える。
それで思ったのは、黒葉の過去の重さだった。
生まれてから星詠みの力があるばかりに、未来を見てお金を貰うことの躊躇いがあったのだろうと葵音にもわかった。
お金払えば危険な過去を回避できる。
それが良いことなのだろうかと考えると、微妙な気持ちになってしまう。
せっかくの力を自分の大切な人に使おうと思うのは当たり前のように思った。
そして、使わないという、選択もできたはずだ。それなのに、強制的に星詠みの力を使わせようとした平星家に葵音は不信感を覚えてしまった。
それに、勝手に星詠みを見たからといって、代わりに代償を支払わせるというのもおかしな話だった。
ざわついた気持ちを落ち着かせるために、葵音は一度大きく息を吐いてから、手紙を読む事を再開した。
『葵音さんとは、どこかで運命的に出会うのかなって思っていたけれど、やはり恋は動かないとスタートしないんですね。
初めて葵音さんに会った瞬間から、私は恋をしました。
星詠みの力で見たネックレスをした人を見つけた瞬間、胸が高鳴って、急いで声を掛けて………どんな人だろうって思ったら、とってもかっこよくて、話しやすくて、優しくて。
この人が私の運命の人なんだって思ったら、すごく嬉しかったし、守りたいって思ったんです。
それからは無茶なことばかり言って、すみませんでした。でも、早く葵音さんの事が知りたくて、そして好きになって貰いたくて、必死だったんです。だから、許してくださいね。
葵音さんを好きになって、そして恋人になれた日々は、私にとってはジュエリーのようにキラキラしていて、大切な物でした。
ただ話すだけで楽しくて、寄り添って座るだけで安心して、キスをするだけでドキドキして、抱き合うだけで幸福感を感じられて。
葵音さんが好きだな、と思える日々が今までで1番素敵な時間でした。
そんな葵音さんを守れるなら、私はどうなってもいいって思ってました。
けれど、怖いです。失敗するのも、葵音さんを守れないのも………自分が事故に遭うのも。
ずっとずっと運命の人を守って死ねればいいと思っていたのに、怖くて逃げ出したくなるんです。
そしたら、葵音さんが危ないのに。
弱いな……ううん、大切な人が出来ながら弱くなったのかもしれません。
失いたくないし、まだまだ一緒に居たい。
そう思ってしまうから………。
でも、これを葵音さんが読んでいるという事は、私はきっと弱さに勝ったんですね!
葵音さんを救えたんですね。
恋人が出来て、私は強くなれたんですね。
きっと、葵音さんは怒ってしまうかもしれないけれど、私は葵音さんを守れて幸せでした。
恋人として素敵な時間を過ごしてくれてありがとうございました。
私の荷物は免許証の住所に送ってください。葵音さんから貰ったお金はほとんど使わずに残っているので、平星家に渡してもらえると嬉しいです。
それと、イルカのぬいぐるみと白のワンピースは私と一緒に寝かせてください。
イルカのストラップと手作りのキーホルダーはきっと壊れちゃってるかな………。
葵音さん、出会ってくれて、好きになってくれて、ありがとうございました。
私は星空と共に見守っています。
平星 黒葉』
パタンと、日記が閉じられる。
あぁ………なんて勝手な奴なんだ。
勝手に運命の人と決めつけて、家に上がり込んで、俺を惚れさせて、恋人にまでなって、そして俺を守って死のうとしていたなんて………本当に自分勝手な女だ、と葵音は思うようにしていた。
けれど、思い浮かぶのは彼女の優しい微笑みばかりだった。
葵音は生きてきた中で、この数ヵ月がとてもキラキラしていたし、世界が鮮やかに色づいたように感じていた。
その証拠に作っていたジュエリーも、いつも以上に好評だった。
こんなにも特別な存在になったのに、大切で、最愛の人だと誰にでも言えるほど好きだったのに………。
死のうとしていたなんて。
「なんで話してくれなかったんだよ……….。俺はそんなに頼りなかったか?俺は、黒葉を守りたかったよ。」
脳裏に焼き付いている、あの日葵音を押した手を必死に掴むように、葵音は何もない空間に右手を伸ばす。
けれど、同じように何も掴めずにそのまま腕が白い布団の上にドザリと落ちた。
彼女に触れたい。
彼女の声が聞きたい。
彼女の笑顔が見たい。
そんな事を思い、葵音はまた涙を流していた。
泣いてばかりだなと思いながらも、涙を止めるすべを葵音は知らなかった。
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