第22話
22話
月が輝く夜空の下を葵音と黒葉は2人で歩いた。
影が出ているぐらいに光る月を、葵音は綺麗だとは思えなくなっていた。
黒葉が言う通り、星が見えにくいなと思うだけだった。
なまゆるい風が流れていたけれど、2人はしっかりと手を握っていた。心なしか、葵音が握る手の力が、少し強いような気がしていた。
「明るいな。」
「……月は温かいから好きなんですけど、やっぱり嫌いです。」
「……そうか。」
黒葉の名字には星が、葵音の名字には月がある。葵音は自分の持ち物に月の物を準備する事があった。それぐらい自分を示すものとして月のデザインを使うぐらいだった。
だからなのか、彼女に月が嫌いと言われると、何故かドキッとしてしまうのだ。
そして、「月を好きになればいいのに。」と思うのだ。
いつもより明るい公園内を歩いて、湖のほとりに座り込む。
もう2人は、服が汚れる事を気にする事はなかった。
膝を立てて座りながら、葵音の隣にピッタリと寄り添うように黒葉が座った。
「やっぱりいつもより見える星が少ないですね。」
「そうだな。」
星空を見つめながら、黒葉はゆっくりと話し始めた。その言葉は、葵音が何よりも心地いいと思える声だった。
「私、きっと明日見るはずの夜の海よの星空より、プラネタリウムの星たちよりも、ここの星空が1番好きだと思います。」
「そうなのか?ここよりずっと沢山見れて感動するかもしれないぞ。」
「そうかもしれないんですけど………。でも、ここで見てきた星空にはいつも葵音さんとの思い出があって。沢山の葵音さんを独占出来たから……。ここが大好きなんです。」
そう言った後、黒葉は星空を見ていた視線を葵音にうつした。
彼女の瞳には、星空見た時のままのようにキラキラした物が無数にあるように見えた。
それが溜まった涙だと気づくのが、少しだけ遅くなった。それぐらいに綺麗だった。
「葵音さんと出会えてよかったです。こうやって好きな人と一緒に居れる事だけで幸せになれるなんて、初めて知りました。この感覚を忘れたくないです………。きっと、忘れない。」
「これから、ずっとずっと続けていけばいいだろ。俺はずっと黒葉と一緒に居る。」
「………そうですよね。」
幸せを紡ぐ言葉のはずなのに、黒葉の顔は今にも泣き出してしまいそうだった。
最後に思い出を語るようにも聞こえるその言葉を、葵音は複雑な気持ちで聞いていた。
なんでそんな事を言うのか。今、彼女に問えば教えてくれそうな気もした。
けれど、葵音がそれを出来なかったのは、彼女の秘密を知るのが怖かったのかもしれない。
目の前から黒葉がいなくなってしまう真実が現実に起こってしまうのが怖かった。
自分の考えすぎで気のせいだと思っていたかったのだ。
自宅に帰ってきて、2人でベッドに入ると、黒葉は自分から葵音に抱きついてきた。
そして、ぎゅーっと自分の体を押し付けながら、葵音の胸の中で少し火照った顔で葵音の顔を見上げた。
「どうした?明日は旅行だから早めに起きるんだぞ?」
「………甘えちゃだめですか?」
1度体を重ねてから、2人は何回も抱き合う行為を重ねてきた。
けれど、旅行前は疲れさせるだろうと思い、葵音は我慢しようと決めていた。
けれど、その決意も彼女の可愛い言葉と、挑発的な視線によって揺らいでしまうのだった。
「………いいのか?」
「……葵音さん、そんな事聞きながら、もうパジャマの中に手が入ってますよ?」
「俺も男だから、そんな誘いを貰ったら断れないよ。」
「断らないでください。」
クスクスと笑う黒葉を見て、葵音はこいつにはかなわないな、と思いながら頬っぺたにキスを落とした。
「黒葉……好きだよ。」
「はい。私も葵音さんが好きです。」
キスを何度も繰り返してから、黒葉は彼女を抱き締めた後、彼女の着ていた服に手を伸ばしまた。
カーテンの合間から覗いていた月が、見えなくなるまで、葵音は黒葉の体を求め続けた。
1度彼女の肌に触れてしまうと、加減が出来なくなってしまうのだ。
そして、今日は彼女の視線を感じることが多かった。こういう行為にまだ慣れていない黒葉は、いつもならば恥ずかしがって、目を瞑ってしまう事が多かった。
けれど、今夜の黒葉は違った。
しっかりと、葵音の方を見つめており、ほとんど目を強くとじる事はなかったのだ。
目は少しぼんやりとしていたけれど、涙を浮かべて葵音から与えられる熱に翻弄されながらも、見つめてくれる。
黒葉と見つめあって抱き合うのは、恥ずかしさもありながらも、気持ちを高めてくれた。そして、求められているように感じた。
「あっ………葵音、さん……ぎゅっとして………くださぃ……。」
途切れ途切れの言葉でそう言いながら、葵音の首に腕を絡めて、自分から抱き締めてくる。
彼女から求められるのは嬉しい。
幸福感を感じながら、彼女を抱き締めるの、少し体が震えてるのがわかった。
彼女は本当に泣いているのだ。
そう思った瞬間に、彼女の行動の意味が繋がった。
この時間を頭の中に刻むように、目を開いて必死に見つめていたのだ。
そして、今日葵音を求めたのはそうなのではないか?
彼女は必死に思い出を作ろうとしているように感じたのだ。
それがわかったとしても、その時の高まった熱を抑えられることは出来ない。
葵音は、彼女が望むように体を抱き寄せて熱を与えるしか出来なかった。
「思い出か………。何をそんなに怖がっているんだ?」
すぐに寝てしまった彼女にそう呟いても返事を、するはずもない。
乱れた髪を撫で、目尻に溜まっていた涙を指ですくいながら、彼女の寝顔を見つめた。
「明日、沢山思い出を作ろうな。」
臆病な葵音は、ただそう言う事しか出来なかった。
そんな自分にため息をつきながら、葵音は黒葉の隣にけだるい体を倒して目を瞑った。
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