第13話






   13話





 「僕は、影浦累。葵音とは腐れ縁でね。君の名前は?」

 「先ほどは驚いてしまってすみません。…………平星黒葉です。」

 「平星………ね。」

 「………。」

 「おい、累。黒葉を怖がらせるなよ。」



 何故か累を交えて遅めの昼食をとることになった。

 フードコートに行くと平日のお昼過ぎとあって閑散としていた。


 葵音と黒葉はハンバーガーを、そして累はイチゴパフェを食べている。

 それをジーっと黒葉は見つめていた。



 「累は極度の甘党なんだ。昼御飯が菓子とか普通だからな。」

 「それは昔の話しだよ!今はお菓子じゃなくて、フルーツを食べるようにしてるんだ。」

 「………フルーツよりクリームの方が多いと思うけどな。」



 葵音はげんなりしながらも、久しぶりのやり取りでついつい笑顔になってしまう。



 「それじゃあ、黒葉ちゃんが葵音の家政婦さんをしてるんだ。しかも、住み込みで!」

 「はい。葵音さんにはよくしてもらってます。」

 「そっかそっかー。いいなー、僕も可愛い女の子なら家政婦さん雇おうかな。」

 「……確かに、累の食生活を管理してくれる人が必要かもな。」

 


 そんなやり取りを黒葉は楽しそうに見つめていた。すると、累がじっーっと黒葉を見つめ始めた。

 初対面の相手に見つめられているのだ、黒葉は戸惑いながら、累を見返すと累は「黒葉ちゃんは占いに興味ある?」と聞いた。



 「え………。」

 「こう見えても累はよく当たる占い師なんだ。俺もよく見てもらってるんだ。」

 「そうだよー!今日の午前中も予約でいっぱいで6ヶ月待ちだよ。そんな占い師累が、黒はちゃんの未来を当てちゃいましょう!」

 「私の未来………。」



 いつものように明るく陽気な累に対して、黒葉はとても真剣な表情をしていた。



 「緊張しなくても大丈夫だよ。僕は手相とタロットカードが主なんだけど、タロットしてもいいかな。」

 「………お願いいたします。」

 「席をはずそうか?」

 「いえ……葵音さんもいてください。」



 ぎこちなく微笑む黒葉を一人にしておけるはずもなく、葵音は彼女の隣に座ったまま占いを見守る事にした。


 累は赤の模様が入ったタロットカードを取り出し、鮮やかにカードを切っていく。黒葉弐、手伝ってもらいながら、カードをゆっくりと置いていく。



 「これが、黒葉ちゃんの過去と現在、そして未来だよ。1枚ずつ捲っていくね。」


 

 カードを捲っていくと、左は恐ろしい顔をした悪魔が描いてあるカード。中央は記号が描いてある輪のような物あるカード。そして、右端は大きな月が描かれているカードだった。


 累は、少し顔をしかめながらカードの、説明をしていく。



 「左のカードは悪魔。中央のカードは運命の輪。そして未来のカードは月だね………。黒葉ちゃんは……何か大きな転換期を迎えているようだね。」

 「………転換期ですか。」

 「過去のカードは、何かに縛られている事を意味するんだ。きっと大変な過去があったはずだよ。それを今は乗り越えているから、この、転換期なのか……それとも未来へ転換期からなのか、わからないけれどね。」

 「………この月のカードは、どうなんだ?」



 葵音がそう問うと、累は少し複雑な表情を見せた。



 「月はあまり良くないんだ。」



 累は、月のカードを持ってじっと見つめる。

 


 「予期せぬ危険や不運を暗示しているんだ。」

 「…………。」



 その言葉を聞いて、葵音はドキッとし黒葉を見た。彼女は、まっすぐ前を向きそのカードを見つめていた。それは、とても儚く悲しげなもので、湖で星を見つめている時と似ていた。



 「目標を失っていたり、その道が幻影だという忠告でもあるよ。迷っていたり混乱しているなら1度落ち着いて考えるといい。月が見せる幻影に踊らされないで、自分の思いや直感で進むといいよ。………もし、僕の占いが当たってたらね。」



 真剣な表情で占い結果を説明し、最後は笑顔で締めくくる。これは黒葉が不安にならないようにとの彼の配慮だろう。

 黒葉は、少しぎこちなく微笑み「当たってますよ。」と言った。



 「累さんの占いはすごいですね。過去と今も、思い当たることが多すぎます。………それに未来も。でも、大丈夫です。だから、私はここに居るのです。」

 「………そうか。君はきっととてもよく考えているんだろうね。」

 「………だから、月は嫌いなんです。」



 切なげに言いながらも、月のカードから目を離さない黒葉を、葵音はただ見ていることしか出来なかった。

 累や黒葉が話している事が全く理解出来なかったのだ。今日会ったばかりの黒葉と累は、何か分かりあっているようで悔しくなる。



 「占いだからな。気になりすぎるなよ。」

 「僕の占いが当たるからって信じてるのは葵音でしょ。」

 「当たらないときもあるだろ。」

 「葵音のはすべて当ててるけどね。」



 ニッコリと笑い、意味ありげな視線を向けてくる累を見ると、葵音の気持ちが全て読まれていると分かり、ますます負けた気持ちになってしまう。

 それを見て更に累は笑った。



 「未来は変えられるんだ。だから、そんなに心配しないでいいよって事。………ということで、占いのお礼として、僕と葵音と君のお菓子を買ってきてくれないかな。あそこのチーズタルトが美味しいんだ。」



 そう言うと、財布からお札を1枚取り出して、黒葉に渡した。累が指差した先には、平日にも関わらず長い列が出来ている店だった。



 「おい、あれだと結構並ぶぞ。俺も一緒に………。」

 「私、一人で大丈夫です!行ってきますので、葵音さんは累さんと待っていてくださいね。」



 葵音の言葉を遮って、黒葉はお金を持って長い列に向かって小走りで行ってしまった。



 「いい子だね。君より、僕の意図をよーくわかってる。」

 「………わるかったな、鈍感で。」

 「わかってるならいいよ。………さて、あの子だけど、はっきり言って未知すぎて不気味なぐらいだ。」

 「おい………そこまで言わなくても。あんなに占ってたじゃないか。」

 「………あの結果も、よくわからないよ。他に配ったカードを見ても、あの子の未来は危険すぎるんだ。」

 「………危険?」

 「そう。そして、彼女はそれを受け入れてる。というか、僕が言う前から知ってるみたいなんだ………。」



 累は遠くに見える黒葉をじっと見つめる。

 その表情は、見たことがないぐらいに厳しいものだった。



 「葵音、ちょっと手相見せて。」

 「……いつも見てるじゃないか。」

 「だからだよ。いつも見てるから、変化がわかる。」

 「………わかったよ。」



 少し焦り気味の彼の気迫に押されて、葵音は左手を累に差し出した。

 累は両手で葵音の左手を掴むと、顔を寄せてじっくりと見た。

 そして、すぐに「はー………。」と深い息を吐いた。



 「なんだよ。人の手相を見てため息つくなよ。」

 「変わってるよ、君の手相。」

 「………え?」

 「しかも、よくない方にね。」



 累はもう一度左の掌を見つめながら、葵音に説明をし始めた。



 「君の未来はいくつも枝分かれしていて、よく読めないと言っていただろ。」

 「あぁ……だから、会うたびに手相を見せていたからな。」



 そうなのだ。

 累は、葵音の未来をよく気にしていた。ここまでわからない人はいないと言っていたけれど、近くの未来は当てていた。

 だからこそ、会うたびに手相を見せていたのだ。



 「久しぶりに会ったらこれだもんね………。今まで避けてきたのに、最悪なところに行きそうだよ。」

 「………最悪って。」

 「生命線に大きな線が入っている。」

 「………なんだよ、それ。」

 「わかるだろ。命の線だ。君はもしかしたら、何か大きな事件や事故、病気にかかって命の危険があるかもしれない。」



 親友の思いもよらない言葉に、葵音は唖然としてしまう。

 そして、言葉も出なかった。

 葵音は知っているのだ。

 累が冗談を言わないことも、占いが当たると言う事も。



 「……そして、原因はきっとあの子だ。」

 「黒葉…………?」

 「葵音、僕は黒葉と離れた方がいいと思ってる。それに平星ってどこかで………。」

 


 そう言って累は何かを思い出すように考え込んでしまった。



 彼の言葉を聞いて、葵音は少し離れたところにいる黒葉を見つめて。

 すると、こちらを心配そうに見ていた彼女と目が合った。


 嬉しそうにはにかんで笑う黒葉を見て、葵音はどうしてか泣きたくなってしまった。




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