【鬼】一緒に死のう、この手を繋いだまま
正面から吹き付けてくる風に、目を細める事で対抗する。
今、焔に相対しているのは2人の子供だ。その周囲では風が巻き起こり、2人を中心としたエネルギーが渦巻いている。
つい先ほどまでは、死にそうな目をしていたし、そこまで追い込んだのは焔本人だ。
だから、現状が理解できない。
なぜ、目の前の2人は焔の前に立っているのか。
なぜ、その目に断固とした敵意を宿しているのか。
なぜ、その体から未だ戦意が消えていないのか。
数々の疑問を己が内に抱えつつも、今は目の前の2人を討滅することが最優先だ。何しろ、相手は鬼を殺す事が仕事だし、自分は鬼だ。ここでやらなくても、いつかはやられるのだし、彼らが焔の情報を持って、より多くの人を連れて殺しに来ないとも限らない。
つまり、和解の道はない。
そして、将来的に考えてもここで討滅し、そのまま食った方が今後のためにもなる。
そこまでわかっているので、焔はさらに己の体に鬼力を込める。
「真鬼一転。暴力で持って制圧する」
額の角から、全身に力が漲るのを感じる。非常時に備えて、少しずつ貯められるエネルギーだ。鬼が鬼であると定義される要素でもあり、この角にどれだけエネルギーが貯められているかで鬼の強さが計られる基準にもなっている。
「覚悟はいいな。参る」
拳を握る。足に力を込める。拳を突き出しながら足の力を解放する。拳が鏃の役割をした矢となり、焔が跳ぶ。
焔に相対していた2人は、勢いよく飛んできた焔に対して、1人がもう1人を抱えるようにして横に跳んだ。
焔の突進を回避した彼らが、それぞれの繋いでいない方の手を突き出す。
がら空きの焔の背中に、2人の手から放出された、不可視の力がぶつけられた。
「その程度か」
2人からの攻撃を受けても、焔の被害は直撃した背中がわずかに焼けた程度。鬼にとっては、とても怪我とは言えない被害だ。
反転し、手近にあった木を根こそぎ掴み取る。
頭上で振り回し、勢いが乗ったところで2人に投げつけ、己も木を隠れ蓑に2人に接近する。
2人がいきなり強くなった原因ははっきりしている。このまま戦っても、負ける可能性は低いが、相手が強化された状態で戦う理由もない。
跳んでいく木の向こうに意識を集中しながら走る。
木の向こうでは、2人が何かをしているのか、どんどん風の勢いが強くなっている。
何をしているのか、と思っていると、首の後ろがひりつく感覚に襲われた。
慌てて身を伏せる。
焔の頭上を、木を貫通した旋風が抜けていった。
当たれば多少負傷はしてただろうが、それを察知し、回避に成功した。ならば、今は技の切れ間で無防備になっている。攻め時だ。
前を見据えれば、それぞれに片手を突き出し、肩で息をしている2人の姿。
焔は渾身の力を込めて地面を殴りつけた。
突然、目の前が土煙で覆われたことに、ランは焦りを覚える。
相手の姿が見えないのは、これ以上ないほど不利だ。
なぜなら、鬼の感覚は人よりもはるかに鋭敏で、たとえ人が相手を知覚できなくとも、相手はこちらを認識できている。
そんな、一方的にやられるような現状を打破しようと、相方の手を力強く引く。
当然帰ってくるはずの手応えがなかった。
驚き左手を見ると、そこには相方の右手の肘から先だけがぶら下がっていた。
「え、あ、あああぁぁああ!!」
無駄だとはわかっているが、渾身の力でかかっていた土煙を払う。
手を繋いでいる間は感じられた万能感はすでになく、風が巻き起こっても、それは巻き起こそうとした風力の半分以下だ。
それでも、かかっていた土煙を払うことには成功した。
土煙の向こうでは、肘から先をなくした相方が、血の気をなくした状態で鬼に抱えられていた。
「お、おまえ!!そいつを離せ!」
「命を狙ってるやつの命令など聞けるわけないだろう」
鬼は、相方を勢いよく投げ飛ばした。体が動くよりも先に、相方は木に叩きつけられ、なんの抵抗も見せることなく地面に落ちる。
ああ、もう生きていないんだな、と痛感させられ、世界の半分が失われた感覚に陥る。
「そのまま死ね」
耳元で聞こえた声はなんだったのだろう。
衝撃音が、森に響き、鬼の方向が世界に響いた。
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