【魔女】魔女の愛した一輪の花

 同じ服を着た少女たちが、談笑をしながら歩道を歩く。

 時刻はそろそろ日がくれようか、という時間帯で、周囲にはスーツを着たサラリーマンや、買い物袋を抱えた人、車も日中よりも多い。

「もーやだー。なんでそんなこと言うの?」

 内容らしい内容のない、ただ今を楽しむための会話に、表面上の愛想笑いと相槌を打ちながら、丹山は友達と帰宅の道を行く。

 本当なら、早く家に帰ってやりたいことがあるのだが、どうせ始まる時間は決まっているので、早く帰っても仕方がない。

 友達のどうでもいい話に、笑い声を上げたとき、後頭部に痛みを感じるほどの視線を感じた。同じ感覚は幾度か経験したことがある。そう言う時は、決まって身の危険が迫っている時であり、対処法も心得ている。

 視線を感じた方向に意識を向け、魔法で障壁を展開。さて、どんな奴がこの私に殺意なんて向けてきたのかな、と視線を感じた方向に顔を向ける。

「どうしたの?」

 隣にいる子が首を傾げる。障壁になんの反応がないことと、殺気を向けてきた相手がいなかったことに疑問を覚えつつも、隣にいた子になんでもない、と言おうとして、頭に衝撃を受けた。

 そこで、丹山の意識は途絶えた。そして、そのまま彼女が目覚めることはなかった。



「こりゃ、ちょっと酷くねーですかね」

 しゃがみこみ、路上で遺体の状況を確認する後輩の言葉に、浩二はため息をついた。

「言われんでもわかっとる。……はぁ、何も同級生の目の前で狙撃せんでも良かっただろうに」

 夕方、警察に連絡が入った時は耳を疑った。帰宅途中の女子高校生が狙撃され即死。一緒に帰宅していた友人たちは恐慌状態となり、今も病院で治療を受けている。目のまでさっきまで話していた同級生が頭から血を吹いて死んだのだ。間違いなくトラウマになっただろうし、時間が経ったとしても元の生活に戻れるとは思えない。

「これで4人目ですかね。狙撃で亡くなったのは」

「そうだな。で、今回はロベリアか。関連性が全くわからん」

 一連の狙撃事件では、遺体のそばに必ず一輪の花が添えられている。それも、被害者全てに別の花が添えられているのだ。犯人の何かしらのメッセージだとは思うのだが、その意図が全く読めない。最近では、操作を撹乱するためにわざと置いているのではないか、という意見まで出はじめた。

「さすがっすね。よくもまぁそこまでスラスラと花の名前なんざ出てきますね」

「この花はむしろガーデニングしてれば有名な花だ。感心するほどのことじゃない」

「いやいや、俺にしてみりゃ全部同じにしか見えませんもん。色と形の区別はついても、それと名前を結びつけるのは無理ですわ」

「で、今回も頭部を一撃か」

「ですな。全く、奴さんえらく上等な腕してますぜ。被害者が今の所女性ばっかで、それもなんの権力も持ってないような人ですからそこまでお偉いさん方も危機感持ってませんが、これで政治家狙いはじめたら、狙われた方は防ぎようがないでしょうな」

 確かに事故を未然に防ぐのは難しいだろうな、と浩二は考えるだけでも憂鬱になる。

「なにか犯人の手がかりになりそうなものはないのか」

「銃弾一発」

 いつもと同じか、とため息をつき、後輩とともに現場を離れる。

 野次馬をかき分け、乗りつけた車に乗り込もうとした時、正面から歩いてきた女性にぶつかってしまう。

「や、これは失礼」

「こちらこそごめんなさい!ちょっとよそ見してて……」

 見れば、狙撃され遺体となっている少女と同じくらいの年代の子だ。

 同年代の少女を見たことで、犯人に対する怒りが湧き起こる。

「うん。気をつけて歩くんだよ」

 少女の肩をかるく叩き車に乗り込む。運転席に先に座っていた後輩に車を出すように指示すると、ここ最近連続して起こっている狙撃事件に考えはじめた。



「また、1人やられたんですのね」

「うん。今度はロベリアが添えられてた」

 暗がりの中で、話し声が響く。場所は、山奥の廃校舎。廃校してしばらく経つため、木は腐り、ガラスは割れ、床には穴が空いているような状態で、もはや人がより着くのは夏場の肝試しの時期くらいだ。

 その教室の一室で、いくつかの人影が集まっていた。

 皆、共通しているのは特徴的な三角の帽子をかぶっていることと、衣装がそれぞれ派手であり、さらには衣装のどこかに花をかたどったモチーフが刺繍されていることだ。

「ロベリア……。間違いはないのか」

「まぁ、変身していない時にどんな人生を送っているかを教えあうほど親しい間柄ではありませんもの。確証はありませんわ。ですが、遺体のそばにロベリアの花が添えられていたこと。そして彼女がここにきていないこと。その二つだけで、十分なのではありませんの?1人めが亡くなった時は、その、最近来ないな、ぐらいの認識でしたが」

「そうだな。もうロベリアはいないと考えた方がいいか。あいつはドSだったけど、仕事はちゃんとしてくれてたから、あいつがいなくなるとちょっと辛いな」

 教室内に、重苦しい空気が満たされる。

「退場した者の事は考えても仕方なし。我らがすべきは対処なり」

「えぇそうね」

 その後、天誅の月が、少し傾くまで教室内には話し声が響いた。


「だめね。考えてもわからないことばかりだわ」

「そうだな。ま、頭脳担当が早いうちに殺されちまったんだ。しかたがねぇさ」

「肯定。我らがすべきは殲滅なり」

 教室内に、金属の輝きが発生する。

「魔法少女って言っても、物理攻撃の方が楽だったら、物理に頼っちゃうわよねぇ」

「ロベリアは貴重な魔法枠だった」

 そうだったな、と笑い声が響き、それぞれ武器を持った少女たちが夜空に飛び立つ。

「さて、じゃあ今夜も悪い子にお仕置きしに行きましょうか」

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