大嫌い、大嫌い、生きていて

 西日が差す生徒会室には2つの人影があった。一つは直立不動で、もう一つは椅子に腰掛け腕を組み、背もたれに全体重を預けている。

「で?前言を撤回する気はないんだな?」

 椅子に腰掛けた生徒会長の言葉に、唾を飲み込み、自分の意思を伝える決断をする。

「はい。これ以上、伊庭さんたちとは一緒に戦えません」

「はぁー……。英児よ。理由を聞こう。俺に直接いいにきた時点で、もう止めるつもりはない。そんな奴を戦場に連れて行っても、肝心なところでミスをして仲間の命を危険に晒すだけだからな。だが、一番最前線で皆を引っ張り、誰よりもこの戦いに貢献してきたお前が、どうして今、戦線から離脱しようとする?」

「伊庭さんだってわかってるんじゃないですか?」

「やはり、ミアが理由か」

 あえて言葉は返さずにそれを返事とする。

 伊庭が大きなため息をつき、椅子から立ち上がる。何も言わずに窓まで歩くと、そこから見える世界を見下ろす。

「あれは、俺らの敵だぞ」

「敵だった、が正しいです」

 確かに、今匿っている女は、元敵で、戦線から離脱する決断をしたのも、英児が一緒にいないと、周囲から何をされるかわからないからだ。

「まったく。俺たちの世界を守るために、異世界からの侵略者と戦ってるってのに、本当に大人は頼りにならねぇ」

「仕方がないです。大人は外交努力してるので」

「それで子供達を前線に送り込んで、いざとなれば子供達が勝手にやったことですって切り捨てるのか?前線で戦ってる奴らも、うっすらとそうなる可能性には気づき始めてる。戦闘も最近はどんどん小規模になってるからな」

 それも、英児達の陣営が最低限守るべき拠点が守れれば、それ以上攻め込むことをしなくなったからだ。

「仕方がないか。わかった。英児、お前の生徒会からの脱退を認める。以降は、一般生徒として、勉学に励み、有事の際には生徒会メンバーの指示に従い退避するように。以上だ」

 伊庭の言葉に、英児は頭を深く下げる。2秒ほど頭を下げた姿勢を保持すると、頭を上げ、生徒会室から退室した。

 生徒会室に残されたのは、伊庭一人。


「本当に良かったの?」

 生徒会室を出ると、扉の横から言葉を投げかけられた。

 驚いてそちらを見れば、赤い髪と角が目立つ女が、申し訳なさそうに立っていた。ミアだ。

「いいんだ。もう決めたことだし。……それに、これが生徒会の人たちを助けることができるたった一つの方法だって言うんなら、俺はこれ以外に選べる道はないよ」

「あなたがいいならそれでいいわ」

 ミアは、英児の腕に腕を絡める。

 一度扉の上に掲げられた『生徒会』と書かれた表札を見上げる。

 異世界の住人を親の仇のように憎んでいる点は嫌いだったが、それ以外の点では尊敬できる組織だった。

 だからこそ、彼らが命の危機に晒されるような戦いは終わらせないといけない。

「イバはこれからあなたがやろうとしていることは知ってるの?」

 目線は前に。ただ首を左右に振る。

 これから英児がやろうとしていることは、隣にいるミア以外は誰も知らない。

「ミアこそ、いいのか?伊庭さんたちのことは嫌いだろ?」

「確かに、何回も殺されそうになったから大嫌いだけど。それでもあなたが生きていて欲しいっていうんなら、その望みを出来るだけ叶えてあげよう、と思うぐらいには、私あなたのこと好きよ?」

 敵わないな、と苦笑し、ミアと共に世界を2つに分けるための儀式に向かった。

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