リセットボタンを押しますか?

 始まりは、一通のメールだった。

 青年は、飲み会の帰りで、気分が陽気になっていることもあり、そのメールの内容をよく確認もせず、文面にあるリンクを踏んでしまった。

 いつにもなく陽気な気分で、表示されるであろう画面を楽しみに待っていると、強烈な目眩に襲われた。

 まさかそこまで自分が酔っているとは思わず、回る世界に翻弄される。

 どうにか目眩が収まり、これはとにかく水を飲まないと明日に影響が出るな、とゆっくりと立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。

 何かがおかしい、と思ったのはその時だ。

 フローリングのはずの床はなぜか土と草で覆われているし、部屋にいたはずなのに、何故か太陽が見える。

 気がつかないうちに家を出ていたのだろうか、と思うが、そんな記憶は全くないし、家の周りにこのような地形の場所はない。しかし、懐かしさを覚えるのは何故だろう、と首を傾げる。

「おい!危ないぞ!!」

 首を傾げていると、後ろから注意を呼びかける声が聞こえた。

 どういうこだ、と声のしたほうを振り返る。

「あ、バカ、しゃがめ!」

 注意を呼びかけてきた声とは別の声で、今度は指示が飛んでくる。

 指示に従う間もなく、頭部に衝撃が走る。

「いってぇー!!」

『……え?』

衝撃は振り返った時に後ろからきた。つまり、痛みの原因となったものを確認するためには、再度振り返ればいい。振り返った先には、弓を構えた状態の半人半馬がいた。上半身裸なので、おそらく男だろう、と判断する。

「おいこら!いきなり撃ってくるってことは、こっちも殴り返していいってことだよな?!ちょーっとまってろ。一発殴るから!」

 殴るために一歩踏み出せば、啖呵を切った相手は、身を翻して走り出した。さすが足が4本もあると早いな、と感心するが、感心するだけだ。追いつけないとは言ってない。

 だから、走った。追いついた。一発殴った。

 殴った箇所が、右の前足の付け根だったので、半人半馬の相手は横に勢いよく飛んで行った。

「いいか!謝らねぇからな!先に手ェ出したのはそっちなんだから!」

 ちょっとやり過ぎたか、と冷や汗が流れたので、誰にともなく言い訳をする。

 さてと、とりあえずここがどこかを確かめよう、と周囲を見渡す。酒を飲み、意識を失う直前までいた部屋とは様変わりしてしまっている、というよりは、完全に外だ。そしてやはりどこか見覚えのある景色でもある。

 さて、どこで見た風景だったか、と頭を捻る。

「お、おい。あんたすげぇな。ケンタウロスに追いついて、しかもなぐりとばすなんて……」

「うん?」

 そういえば、あの弓兵に撃たれる前に、警告をしてくれた人がいたな、と振り返る。

「あれ、ウィート?何してんの?そっちはラカマじゃん。どうしたんだよ、他人行儀だな」

「ど、どうして俺たちの名前をしってるんだ?あんたは誰だ?」

 どうやらおかしなことになっているぞ、と首をかしげる。

「誰って、俺はキルサリ。お前たちと一緒に世界征服して、電気を世に広め世界をずっと便利にした一人だよ。忘れたのか?」

「世界……征服?」

「電気……?」

 知り合いのはずの二人の様子が、どうにもおかしい、とキルサリは首を傾げ、そこで、どうしてここに懐かしさを覚えるのかがわかった。

 ここは、この二人と初めて出会った場所なのだ。あのときは、草原で二人にかばわれて、あのケンタウロスに殺されるのを回避できた。

 と、いうことは。

「おい、今は何年だ?」

「今か?今は349年だが……?」

 なんて言うことだ、と、天を仰ぐ。その年は、キルサリがこの二人と出会った年で、酒を飲んで気分が悪くなった日から数えて、丁度20年前だ。どうやら20年前に戻ってきてしまったらしい。

 原因はなんだ、と考え、すぐに理解した。あのメールだ。酔っ払って冗談半分にしか受け取ってなかったが、あの、リセットする、と言うのは、20年間をリセットする、という意味だったのだ。

 今まさに、あの時の決定をリセットしたい、と思いながら、愛想笑いで目の前の二人に共に旅をしないか、と持ちかけるのだった。

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