万に一つの可能性を潰せ

 黄色と青。その二色だけの世界を、土埃をあげて疾走する船があった。

 砂漠を横断するためにつくられたその船は、両弦にキャタピラを装備し、無理やり砂の上を疾駆していく。砂漠化現象で、土地の大半を粒子の細かい砂で覆われてしまった中国地方では、必須の移動手段だ。個人、企業、所有者によってその大きさは様々だが、他所に行けば道路を痛めるから、という理由で走行許可が下りないこの船の所持率は、世帯別に見て80%を超える。

 突如、黄砂の上を走り抜ける船の後方で、砂柱が立ち上がり、その中から巨大なウツボが現れた。

「砂漠ウツボに追いかけられるような心当たりがあるやつは早急に白状しろ!今なら砂の上に放り出すだけで勘弁してやる!」

 甲板の上で、船長が胴間声を張り上げ、船員たちはウツボに打ち込むための銛を専用の大砲に装填していく。

 ウツボが最大到達点に達し、空中で体をひねり頭を下にすると、地面に再び潜り込んだ。

「みんな、見たね?砂漠ウツボが空中で体をひねっているタイミングが狙いどきだ。落ちてくるだろうと思う位置に標準を合わせておいてくれ」

「アイサ」

 砲手の自信に満ちた返事に、頼もしさを感じ、出雲は船長に砲撃指示が完了したことを報告するために一歩踏み出した。同時に、船が上下に揺れる。予期せぬ動きに冷や汗をかきながらも転倒するという醜態は晒さずに済んだ。座礁したか!?と一瞬最悪の考えが浮かんだが、船は止まることなく動きはじめた。

「何事だ!」

 船長の声が再び響き、船尾から水夫が1人走ってくる。

「岩で船底を擦ったようです!」

「損傷は?!」

「不明です!」

 舌打ちしたのが、離れた場所からでもわかった。

「とにかく今はあの魚類をどうにかするのが先だ。お、出るぞ」

 船長の声に後方を確認すれば、後方にあった土埃が消えている。

 船員全員が身構える中、船の速度が急に落ちはじめた。この速度では船の真下から突き上げをくらってしまう、と覚悟したところで、船の前方でウツボが飛び出た。

「左150!」「フォーク120!」「11時!」『ぅてぇー!!』

 予想外の場所から出たウツボに対応するために、甲板上の砲手達が次々と指示を出し、ウツボに照準を合わせる。さすが、熟練の砲手達で、予想外の方向に出たにもかかわらず、照準をバッチリ合わせ、ウツボに命中させる。

 いくつもの銛に撃ち抜かれたウツボは、銛に押し込まれるように吹き飛び、数秒の対空ののち砂漠に墜落した。

 甲板上で歓声が弾ける。

「ウルセェぞ!船体停止!損傷確認!出雲、適当に二人連れてついて来い」

 歓声に沸く甲板に、船長の声が鎮める。

 出雲は手近にいた二人に声をかけると、船長に続いて砂漠に降り立つ。

「どうするんです?」

 先をいく船長に追いすがりながら船長に問いかける。粒子の細かい砂の上なので歩きにくい。

「あのウツボは執拗にこっちを追いかけてた。気性の激しいやつだが、あそこまで人に襲いかかるのも珍しい。何か原因がないかと思ってな。俺ら自身が追われる原因を作っていたかもしれん。可能性の話だが、万に一つってこともある。確認しときたい」



「……まさか、これが?」

「そう言えば襲われる前に釣り糸たらしてた馬鹿がいたな」

 粒子の細かいこの場所では、釣り針も沈む。砂の中には生き物も生息しており、釣りができないこともない。

 その釣り針がウツボの口に刺さっていた。釣り糸は切れている。

「……まぁ、大物が釣れたってことで」

「それが原因で船が動かせなくなったんじゃ仕方がねぇ。だがまぁ、せっかく獲れたんならくわねぇのももったいねぇ。料理長呼んでこい。今夜はこれ食うぞ」


 その後、船は船底のわずかな穴から燃料が漏れていることがわかった。

 キャタピラを人力で動かす非常用運航仕様切り替え、出雲達は目的地であるオアシス街にたどり着いたのだった。

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