ネタ 悲劇の始まりはお別れの準備

 初めはそう、本当に些細なことだったんだ。

 ただ、作業の効率化がしたい。自分の時間がもっと取りたい。ミスを少なくしたい。女の子といっぱい話がしたい。

 それが、いつのまにこんなことになってしまったのか。

 京香は目の前に広がる惨状に、頭を抱えた。

 緑色である。緑色のゲル状のものが、まるで自らの意思を持っているかのように、自発的に動いている。いや、ここまでくれば、もう認めよう。彼らは間違いなく自らの意思を持っている。

 開発段階では、京香の意思を汲み取り、作業の効率化を計るだけのものだった。

 しかし、どこでどう計算を間違えたのか、作り出したものは、京香の思っている以上に京香の意思を汲みとるようになってしまった。

 作業の効率化がしたい、と思えば、心のどこかにあった、こんな仕事頼んできやがってめんどくせぇという思いの方を汲み取り、クライアントの会社をゲルで満たし、まともに仕事ができないような状態にした。自分の時間がもっとほしい、と思えば、そもそもこんな仕事があるからいけないんだ、という思いを汲み取り、発注してきた会社をゲルで満たした。ミスを少なくしたい、と思えば、そもそもミスをする環境がいけないのだ、という思いを汲み取り、取引先をゲルで満たした。女の子といっぱい話がしたい、と思えば、そんなことできるわけがない、という思いを汲み取り何もしてくれなかった。

 結局、生み出したものは、取引先の会社を潰すだけの疫病神となってしまった。すでに京香と仕事をしてくれる相手はいなくなっている。

 このゲルの化け物をこれ以上増やしてはいけないし、直ちに抹消しなければいけない。

 京香がそう覚悟を決めると、ゲルの化け物はみるみるうちにその身が硬くなり、やがて全く動かなくなってしまった。それも、その体の中に仕事に必要な機械や書類を閉じ込めた状態で。

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