08 待ち合わせ
土曜日の昼時の、とある都内の某大学。
大勢の学生たちが行き交っている校門前で停車中の赤い軽自動車、それに乗っている海斗はキョロキョロと辺りを見回していた。
「待ち合わせ場所って……確かにここでいいんだよな?」
スマホに届いていたメッセージを確認して、間違いないと頷く。
つい一時間程前に彩乃からラインを受けて、今日の昼十一時半にこの場所で落ち合う約束をしていたのだ。
呼びつけた彩乃は、花の女子大生。
今日の講座は午前で終わりとの事らしく、午後は暇だからどう? ということで連絡をしてきた。
土曜日の今日は朝から何も予定が無かったので、もちろん考えるまでもなくOKと即答。
というか、急な仕事でも無い限り週休二日は確保されているので、土日の海斗はいつも暇を持て余している。
という訳で約束通りに、この大学前までやってきた。当然、公共機関の電車を使わずにマイカーでだ。
それというのも彩乃のメッセージには、『ぜったい車、運転して来てね。絶対だよ!』と強い文面で当然のようにご希望されていた。
その一文を読んだ海斗は、また彩乃に会えることに嬉しくもあったが、それよりもこの先ずっと彼女の足として利用され続けるのかと思うと、一抹の不安が頭をよぎったりもする。
デートならまだしも、この文面だ、その可能性はまず無いだろう。
きっと、あの頃の彩乃の性格そのままなら、海斗を利用したいという魂胆なのは明白である。
海斗の赤い軽自動車は彩乃のライフスタイルに必須のアイテムになりつつ、同時に海斗はお抱え運転手としての道をまっしぐらな未来が見えるのだ。
これも腐れ縁なのかと、半ばあきらめモードの海斗なのであった。
校門近くにあった駐車場に車を停めて、今度は徒歩で校門前に立った海斗は、目に付いた校舎の時計で時間を確認した。現在は十一時を回ったところだ。
約束の時間よりは少々早めだったので、時間になるまでここら辺に居ようと、近くの木に背中をつけて待つことに。すると、
「おーい、カイ! こんにちはー」
後方から軽快な声が飛んできた。幼馴染の彩乃だ。
振り向けば彼女が手を振りながら、こちらへ近づいてきている。
「随分と早いねえ、もしかして結構待ってたの?」
「やあアヤ、僕は今来たところ。といってもまだ約束の時間には早いだろ?」
「まあそうだね、でもよかったあ、
安堵した笑顔を見せていた彩乃であるが、不思議と彼女のその言葉に何故か引っかかるワードが。
疑問に思った海斗は眉をひそめた。
「アヤ達って?」
「そう、アヤ達よ! 今日は、女子大生の友だち二人も一緒なんだ」
その告知に「えっ」と声を漏らした海斗は、よくよく見るれば彩乃の後ろにその存在が。
「あ? いやいや……そんな話、聞いてないけど」
「うん、言ってない。だって、言うとカイ嫌がるでしょ? 女の子、苦手って言ってたしね」
知っていたのなら何故と、彩乃を攻め立てたくなる海斗。
「ね、いいでしょ? アヤのお友達なんだから、カイにも紹介しておきたいし、それに、きっと楽しいよっ」
彩乃以外の女性に対して必要以上に緊張してしまう、言わばある種の病気的症状を発症してしまう海斗は、前もってその事を知っていれば頑なに断っただろう。
「ね? 今日だけでもアヤ達に付き合ってよ、カイっ!」
「……わ、わかったよ」
彼女の強引な押しに、どうやら罠にはめられたと理解した海斗は、納得はいかないながらも渋々と承諾をする。
「よっしゃー! じゃあ早速紹介するね。こちらが
「ども、よろしくな」
片手を上げて挨拶をする横峯は、ボーイッシュなスタイルに短髪、目元も若干つり上がっていて口調も男勝りっぽかった。どうやらその性格を表すように、失礼ながら胸もあまり目立っていないように見える。
「ど、どうも、こんにちは」
やはり異性と向かい合うと、どうしても緊張してしまい、海斗はどもってしまう。
「そして、こちらが
「はじめまして、新井京子です。今日はよろしくお願いします」
こちらは打って変わって非常に丁寧な挨拶。長いフリルのスカートに両手を揃えて深くお辞儀をしていた。頭を上げるとかわいらしく首をかしげてはにかんだ。
「ど、どうも、こんにちは」と海斗は、先ほどと変わらぬ挨拶を返していた。
「で、この子が渋川海斗君。つい先週、偶然出会ったアヤの幼馴染よ」
「し、しぶかわ、です」顔が引きつりつつも、海斗はなんとか自己紹介。
「あー、なるほど、これが噂のカイくんな。なんとなくオタクっぽいけど、まあまあ普及点じゃね? 今週ずーっと彩乃から聞かされてたからよ、おかげで耳にタコができちまったぜ」
口調が悪い上に、なぜか上から目線で言ってくる横峯しずか。全然静かじゃない。
お陰で海斗の女性恐怖症に拍車が掛かりそうだ。
彩乃は「えーっ、ずーっとじゃないよ」と抗議しているが、新井京子は横峯の隣でクスクスと笑っているだけだった。
「よし! 早速出発するわよ。これからカイの車で、三人を乗っけて連れて行ってほしい所があるの。では、運転手さんよろしくね!」
「えっと? その、どこに?」
「それはね……」
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