第77話「子爵側の方針」
それから子爵の率いる連隊はアンデットの攻撃に悩まされ続けた。規則性のない攻撃頻度、休むために構築された陣地中央には投擲や弓矢による遠距離攻撃、テントや物資を燃やすために打ち込まれる火矢などなど……嫌がらせ目的の攻撃を法則性なく繰り返してくる。
子爵率いる連隊は眠ることが許されず、司令部となっている天幕は不夜城と化していた。そこでは様々な策やこれからの方針が議論され、子爵は側近や部下たちは万が一にでも負けぬよう知恵を絞っている。
「先ほどの敵襲もそうでしたが、相手はこちらを疲弊させること以外眼中にないようです。見張り・休息の比率を変えてもいいのではないでしょうか? このままでは疲弊してしまいます」
「しかし相手はアンデット。これからが本番、今の人員以下にしてしまっては速攻で来られたら時に耐えられません。せめて時間を稼げるほどの人員は必要です」
「それに数日程度なら問題はありません。魔術や薬でごまかすことも十分可能です」
「そうは言うが物資も魔力も無限ではない。十分な休息も取れない状況が続けば我が軍は瓦解するぞ……」
「相手がアンデットだけとは限りませんしね……」
「ここは一気に攻勢に出るべきではないでしょうか」
「視界不確かな夜に行軍するなど危険だ。相手はアンデットだぞ」
「ならば精鋭のみの少数ならばどうでしょう?」
「指揮官を討てればよいが、囲まれて消耗戦に持ち込まれたらどうする?」
「……皆さんの意見は分かりますが、ある程度の危険は仕方ありません。ここは冷静に、勝率の高い策を見極めませんと」
どの意見も理に叶っている。だがどれかを選び、子爵は勝利を引き寄せなければならない。例え間違った選択をしようと修正し、不利になろうと起死回生の道を探すことが自分の仕事。
それが貴族たる、指揮官たる者の務めだ。
「皆の意見、大変参考になった。物資がまだ潤沢にある今、無理をして夜行軍する必要はない。見張りの数もそのままだ。攻勢に出るのは明日、今夜の内に敵の戦力を見極める。大打撃を受けるほどでなければ戦力差は歴然、指揮をしている個体を討ち滅ぼし、 ダンジョンまで一気に駆け抜ける」
部下の一人が手を挙げて発言許可を求めたので、子爵はそれを許した。
「子爵様、お言葉ですが相手が戦力を偽る可能性もあります。今夜だけで判断するのは危険かと」
「確かにそうとも考えられるが、時間を与えることは避けたい。ダンジョンは時間が経てば経つほどに厄介になる」
「それは、その通りですがーー」
「もし相手の戦力が予想を遥かに越えているなら退却する。それで文句はないな?」
「聞き入れてくださり、ありがとうございます」
「もしそうなれば中央に援軍を要請せねばならんな……金も貸しも溜まってはいるが、悩ましいな全く」
現状かかるかも分からない費用に憂鬱になりながらも方針が固まる。子爵は軍議に参加していた半数に「寝ろ」と命令を出し、従者には持ってきた高級茶葉でお茶を入れるようにと指示を飛ばす。
(せめてゆっくりと茶でも楽しもう……)
そうして訪れた束の間のティータイムに心休めるが、その癒しの時間もすぐに台無しにされることとなる。
金の亡者による現状改善の要求だった。喚くわ騒ぐわ丁寧に対応せねば怒り狂い、士気にも関わるほどの醜態で当たり散らしてくる。もったいないが帰還途中に振舞おうと思っていた酒類を渡し帰ってもらった。安酒をと文句も垂れていたが非常にいやらしい顔をしていたので、泥酔して大人しくなってくれるだろう。
(……このような状況が嫌なら功績目当て従軍しなければいいものをっーー)
「敵襲っ!! 敵の大軍が接近中っ!!」
「(すでに死んでるくせに元気な奴らだっ!!)寝ている奴ら全員叩き起こせっ!! 団体様のご到着だっ!!」
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