第69話「作戦の概要」

 僕の計画はこうだ。

 熊などの大きい毛皮を手に入れ、それを羽織って見た目を偽装する。付け焼き刃の知識だがギリースーツなどと同じで、自然界にあるものに擬態して難を逃れた話を聞いたことがある。確度は分からないが遠目なら効果があるはずだ、それほどに異世界の生態は把握しきれないほど多様化している。知らない種族など数多く存在し、今もなお変容している生物も多い。そしてなにより視認されても見逃して貰える可能性が残る。


(……そして翼を持っている特性を最大限に利用する)


 魔素のあるこの異世界、詳しい理屈は分からんが翼のある者は飛行に対する適正が高い。おそらく魔術や魔法も関係しているのだろう。持つ者も持たない者も航空力学を無視して上昇下降することが可能だ。だがしかし効率か特権かは分からないが、継続して飛行する能力が高いのは翼を持つ者たちだ。


(そうだ、短期的や瞬間的でなければ大体こちらに軍配があがるが……)


 その圧倒的優位性を放置するほど相手もバカではない。人族側に属している獣人の有翼兵団、地上からの攻撃する方法を開発、亜竜を筆頭とした飛行能力のある存在を調教するなど挙げればキリがない。


 だがこの森の中でそのような短慮に出るとは思えない。そのような目立つ行動をとれば魔獣に発見される危険性が高くなり、仲間を危険にさらすことになる。血に飢えている一部の魔族ならともかく、まともな人族にそのような者がいるとは思えない。


(それにここは最前線ではない、激戦地で猛威を振るっているような強者は少ないはずだが……)


 要所を守るために練度の高い人間が配置されているのも道理だ。

 だがそれらを基幹とする要員が派兵される可能性は低いだろう。理由はダンジョンによる後方撹乱作戦が手垢にまみれているからだ。もしダンジョンの情報が意図的に流されていたとしても、狙いは他にあると思うに違いない。


(……来るとしたら指揮する立場に数人程度だろうか)


 おそらく保険、教導の意味合いで付いている可能性はある。

 まったく、後方で功績をあげられると息巻いているボンクラ貴族であれば比較的に楽なんだが……そう楽観してミスしてしまうのも馬鹿らしい。


(やはり魔力をある程度絞って、脅威と思われないように振る舞うのがいいか……)


 でもそうなれば知能の低い飛行する魔物に「手頃な獲物だ」と襲われる可能性がある。だが空は視界がひらけているので、余裕を持って対処することが可能だろう。

 それと使用する魔力量も術に頼りきらなければ解決する。翼を魔術的な要素だけではなく、物理的に使って風に乗ることができれば節約もできるだろう。


(問題は高高度まで上がって無事に偵察を終えたあとだ。試したことがないことなので、魔力がどれほど残るかは分からない。そしてもし、ダンジョンを目指して行軍中だったら……)


 無い頭で考えた対抗策を使うことになるだろう。できれば使いたくはない、それに自殺を選ぶかも分からない、だがもし生きたいと思ったなら? 迷わず実行するしかない、手札などないのだから。


「さあ、始めようか……」

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