第70話「急報」

 ところが踏み出した瞬間に念話の着信音が鳴り響いた。緊急時以外には使用を控えるように言ってあるので、愉快な報せではないことは確かだ。


(どうした?)

(マスター、緊急事態ですぞ。ダンジョンに向かって前進してくる反応を捉えました)

(……スケルトン、もっと詳しく教えてくれ)

(生者の反応だけで連隊規模の軍勢がまっすぐ迫ってきています。進軍速度も速いです。最速で日が沈む頃にはダンジョンまで詰められると思われますが相手は疲労する存在、休息をとることも加味すると戦闘は明日の朝になるかと)

(そいつらは何処からきた?)

(マスターが向かった方角とは逆です。そちらから感知できる範囲に侵入されたので間違いないかと)

(……わかった、急いで戻る、切るぞ)

(はっ、お待ちしております)


 僕は既に場所が知られていると確信した。思った以上に時間はない。だが思ったよりも冷静だ。そして急いで戻らなければいけない。僕は一刻も早く戻るべく変化を解き、身体強化のみに魔力を供給して速度・強度をあげた。


(裏切られたのか、それとも人族の執念か、はたまた運命のいたずらか……答えの出ないことを考えるのはよそう)


 しかし理性に関係なく頭は回り続ける。

 もし自分が原因ならば真逆方向から敵が進行してくることはない、そちらは海洋国家とは別口の宗教国家だったはず。欺瞞工作の可能性もあるが、わざわざ大勢率いて危険な森の中を大回りするほど狂ってはいまい。


(背景がどうあれ今は防衛だ。むざむざ殺されてやるものかよっ)


 追い込まれ、死が近く感じられるようになって本能が叫びを上げたのだろうか。今の僕に死にたいという気持ちはない、だがかといって明確に生きたいと焦がれているわけでもない。自分の命が脅かされていることに対しての防衛本能だろうか、焦るように生きるために選べる手札を無意識的に選んでいた。

 そして思うがままに速度を上げているとあっという間にダンジョンへと到着。僕はすぐさま隠し部屋へと駆け込み、スケルトンからさらなる情報を聞き取ることにした。


「マスター、新たに2方向からも反応が」

「……規模は?」

「どちらも大隊規模です」


 これは終わったかもしれんな。

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