第67話「疑心暗鬼」

 変化をしているとはいえ見つかるのはマズイ。前世でも今世でも一人森の中をふらふらしている一般人は存在しない、居たとしたらそれは不審者だ。しかも異世界での事情も考えると幻惑や幻視などを使う魔物、魔族と見られるだろう。「迷い込んでしまって」が通用するほど村からも街道からも近くはない。

 接触は避けなければいけない、待っているのは尋問と執拗なまでのチェックだ。


(あと30日は猶予があるはずなのに何で……)


 とりあえずもっと離れよう、とりあえず来た道を戻るカタチなら遭遇はしないはずだ。そしてある程度距離を稼いだら……どうする。


(ダンジョンに戻るか……それとも)


 もしも、既にダンジョンの場所が絞り込まれているとしたら急いで戻らなければいけない。だがそれも確定している訳じゃない、単に周辺の安全を確保するために森の魔物を間引きに来ている可能性だってある。冒険者であれば何かの依頼で来ているはずだ、あの少人数でするようなーーいや待て、もしダンジョンの詳細な場所を調べに来ているとしたら2人だけでは少なすぎる。複数のチームが派遣されているはずーー


(……っくそ、情報が無いから憶測しか浮かばない)


 調べる必要がある。現在の情報量では適切な判断が下せない。


(……それに考えたくはないが、1ヶ月というリミットが嘘という可能性だってある。なんせ同族とはいえ魔族からの情報だ、信用できるかも怪しいーー疑心暗鬼になるな、冷静さを失えば情報の精査も難しくなる……)


 とりあえず変に考えるのは止めよう、今は情報の収集だ。まずは軍が展開しているかの有無、そして冒険者の場合も考え複数派遣されているか否か。

 僕はある程度の距離まで戻ったのを確認し、身体強化を発動させて大きく迂回するように反転。まずは先ほどの場所付近を見下ろせる場所を探すため、木に登り辺りを見渡す。


(予想はついていたが際立って高い木はなく、山も遠見の術の有効範囲内にはない。まあ例えあったとしても木々の間隔も狭く視界も確保しにくい、見る角度にもよるだろうが難しいだろうな……そうなると)


 接近して目視・感知・探知するーーバレなきゃ一番リターンは大きいが、難しいだろう。これは却下だ。

 ダンジョンに戻って偵察に適した魔物を召喚するーーあの距離で感知されたら場所がバレるだろう、これは賭けだな。

 あとは魔族の姿に戻って高高度から遠見の術を使うかーー見つかれば徹底的に追いかけられるだろうな。そしてもし相手がダンジョン目当てでなく、リミットの1ヶ月も嘘じゃなかった場合は最悪だ。自分で自分の首を絞めることになる。


(できれば賭けはしたくない。負ければ準備不足の状態で籠城戦だ、きっとロクなことにはならない)


 どうする、どうすればいい。感知も探知もされず、見つかりもしない都合のいい方法はないのか……

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