第66話「獲物はどちらか」
まずは探知と感知を止め、風下限定で視界の確保できる地点を探す。それと並行して草木を摘み、体に巻きつけて簡易的なギリースーツを作成する。今回は浅い場所とは言えないし、魔力を完全に絞っての索敵だ。発見される可能性はできる限り減らしたい。欲を言えば獣の匂いのまだ残る毛皮があれば良かった、それがあれば匂いも偽装できるのだがーー
(いや、野生動物に擬態するのはダメだな。土や砂を適当に被っておこう……)
獣臭は人族相手には有効かもしれないが、森の生き物のことを考えると不味いかもしれない。考えなしに魔力の無い弱い獲物だ、と知能の低い奴を引き寄せてしまいかねない。
僕はそう考えながらも手と足を動かし、良さそうな場所へと辿り着く。場所は相手の進行方向を見通せる木の上。葉のつけ方も密度が高く、間に合わせで身につけたギリースーツーーのような蛮族の祭り衣装にもマッチしている。相手の進行予定地点からも距離もあり、発見される危険も少なそうだ。それに通るであろう場所、観測ポイントは遮るものが少なくなる箇所がある。これなら識別もしやすいだろう。
いい場所だ。ここで周囲を警戒しつつ、相手を待つことにしよう。
(しかし、色々と道具があれば便利なんだがなあ……)
無い物ねだりだが望遠鏡が欲しい。あの文明の利器さえあれば距離を詰めるような偵察をしないで済み、危険を承知で挑む必要もなくなるのだが、この異世界で望遠鏡というものを見たことがない。
(もしかしたらこの異世界は魔術主軸で発展してきたから、そうゆう技術は重宝されなかったのかもなあ……)
そんな前世を羨むような気持ちになりかけるが、僕の口角は不敵に上がる。
(だがそれも素材が揃えばコアで生成できる。文化的な生活、便利な機器、夢が広がるなあ……おっといかんいかん、集中集中)
僕は気を取り直して標的の影を探す。目を皿のようにしつつも集中しすぎず、何が起きても対応できるように程よく力を抜いて相手を待つ。会敵するまえに疲れた笑えない。
そして少し姿勢が辛くなった時、標的と思われる影が確認できた。
(あれか? まだ茂みでよく見えないが2体いる。二足歩行しているように見える、亜人種か)
その間も周囲の警戒は怠らない。視野狭窄で奇襲を喰らうなんて御免だ。
(光沢感があるのように見える、少し鈍いような……鎧か? そうなるとゴブリンの成長した個体、いや下級のリビングアーマーという可能性もあるなっーー!!)
茂みから出てきたのは人族だった。
しかも2人とも同じ金属鎧、同じ剣を帯刀しているところから軍人と思われる。
(まさかここまで偵察に? それもそんな少人数で? いや待て、2人だけでここまで奥に来るとは思えない)
となると考えられるのは歩哨だ。そうなると近くに軍隊がいる、最悪だ。
いや待て、そう確定した訳じゃない。そうじゃないとしたら武装を統一するタイプの冒険者、でもそうなると少人数で探索できるほどの強者ってことも……ダメだ、どう転んでもいい情報にはならない。
(いや待て逃亡兵や迷いこんだ可能性もーーでもだとしたら装備が綺麗すぎるな)
どれが真実だとしても、まだ見つかる訳にはいかない。
僕は魔力を絞った状態のまま、その場を離れることにした。できるだけ音を立てず、相手から見えないように。
(杞憂かもしれないが身体強化は使わない。もしあいつらが軍人で、察知されでもしたら報告されるかもしれない。そしてもし展開している部隊の中に頭の切れる奴が居たら、偏屈までに慎重な奴が居たら、当たりをつけられ調査されるかもしれない……)
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