第65話「慎重で臆病」
僕は無駄な思考を振り払い、森の中へと入っていく。
一気に距離を稼ぎたいが森の浅い場所では村から視認・感知される恐れがあるので、見つからないように魔術を使いながら奥へ奥へと進んでいく。その分歩みは遅くなるが狩りをする人達と鉢合わせいても面倒だし、己がために近辺の動植物を減らしてしまっては関係にヒビが入りかねない。狩り・採取する場合にはなるべく自重する必要がありそうだ。
といってもまずはダンジョン付近での物資調達。早めに着手すれば休息がとれる時間も増えるので、コア付近で休むことも加味すると色々と無茶もできそうだ。
(……よし、ここまで来れば大丈夫かな?)
僕は後ろを確認し、ある程度まで進んだことを確認。そして感知・探知の魔術を使って人の目がないかを確かめる……どうやら問題はないようだ。僕は身体強化を使ってダンジョンまでの道のりを急ぐことにした。
(できれば魔石を多少は獲得しておきたいな……)
そうなるとオネフット達に渡す食料は魔物肉にしたほうが効率的だ。手頃なのはオークだ、下処理を間違わなければ豚肉とそう変わらない。ゴブリンも食えないことはないのだが、魔族の間で罰ゲーム扱いになっているものを人族にやる気はない。
(試したことはないが、食ったらどうにかなりそうだ……ん?)
使っていた魔力感知に手頃な反応が引っかかった。反応の強さからゴブリンではないし、群れを形成でもないので狼の類ではないと思われる。2つの反応が付かず離れずのところから何かしらの番い、もしくは亜人種などの斥候かもしれない。
もしこの反応の通りなら、かなり手頃な獲物だ。
(……移動する速度はゆっくりだな)
動体探知のような索敵する波動も感じないので対象の警戒心は薄いーーいや、もしくは魔術を得意としない脳筋種族という可能性もある。その手の奴らは無駄に身体能力が高いので、直接戦闘はキツイ恐れがある。それに魔力を絞っているとしたら強い個体かもしれない。獲物が向こうからやってくるように誘っているのだろう。
もし、万が一僕よりも強い個体なら魔力を絞って近寄るのは危険だ。手頃な相手がやってきたと狩られてしまう。そうなれば変化を解いて戦うしかない……いや、どこかの勢力に発見されたりでもしたらお終いだ。
(今の状態で勝てる道を模索するのが一番だが……)
完全に魔力を絞り、風下から近づけばバレずに接近できる。だが魔力を完全に仕舞うと能力が下がるし、防御面も紙以下になる。横合いから他の個体に狙撃、不意打ちを食らったらアウトだ。
(……というか相手も判明してないのに色々考えも仕方ないんだよなあ)
危機回避という点においては考えることはとても重要だ。だがそれも過ぎれば何も得ることもできないし、危険を感じつつも行動する勇気を失うことになる。
(結局目視しないことには始まらない。魔術があるのに不便な異世界だ……)
僕は標的を目視するべく移動を開始した。
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