第64話「森への道すがら」
さて、狩りや採取をするなら最初にダンジョン用の物資を確保しないといけない。村への御礼品は帰りのほうが効率的だし、あとで調達しよう。まずはダンジョン充実のために魔石、なるべく損傷の少ないモンスターの死骸だ
(生け捕りの方がいいのだろうが、それは色々と消耗しそうだから難しい。死体か素材で妥協しよう)
他はオネフット達への水と食料だろうか。水はまた魔術でどうにかするとして、食べ物を優先したほうがいいかもしれない。適当に浅いエリアで野生生物を狩っていこう……
(これは……人材不足だから仕方ないが、僕のやることが多い気がする)
いっそ召喚・生成用に素材を集め、仕事を任せられる者を獲得するかーーダメだ、彼らが覚醒状態でいる内にコアを使用すれば何事かと思われてしまう。規模・距離・相手の素養次第だとは思うが感知される恐れがある。
(もしやるなら寝静まった深夜だ。なら今晩にでもーーいや、もし居ないとバレると面倒だな……)
それに魔族にとって睡眠は必要ではないが、回復手段としては重宝するという位置付けだ。
魔力を消耗するであろう今日の計画を考えると、睡眠はとっておきたい。回復薬などの魔法薬があればいいのだが生成するには素材が必要だ。
薬草採取するかーーでも薬学、錬金の知識もなければ道具もない。生成するとなればダンジョンコアを使用しなければならない、そうなれば魔力を多く消費することになる。それに現状使用を控えないといけない状況だ。
(何事にも何かが必要で困るな……それに制限も多い。こりゃあ早いところ行商人から服や体裁の整う品々を買って、オネフット達を追い出したいな)
最悪長めに布を買って古代ギリシャの様な感じにしよう。質の良い布を使えば変には見られないはず……もしダメそうなら現地で調達してもらおう。それと見目をある程度は小綺麗にしないといけないな。あの薄汚れた格好では門を突破できないかもしれない。
(……髪は布を巻こう。ヒゲは中途半端に長くてみっともないから整えよう。体の汚れは適当に行水させればいっかなー)
早いところ彼らをダンジョンから追い出せれば、施設や戦力の充実にも手が伸ばせる。
だが懸念もある。今は戦時だ、特に国境線は警戒態勢のはずなので感知されるかもしれない。あまり連続して生成・召喚してしまうと、魔物の自然発生時に揺らぐ魔力との違いを看破される恐れがある。それに加えて軍が大挙するまで30日そこらだ、下手に刺激してしまうと期日が早まる可能性もある。
(現状は情報の確度を調査しているはず……下手に動くのが一番マズい)
だが悲しいかな、一切行動しないのもマズいのが現実。
もし不運にも発見されてしまったら「まだ戦力が整ってないぞ」と早期に戦力を向けられるだろう。今は見つからないこと、対応力を上げることに尽力しないといけない。
(そう考えると野良の魔物を生け捕りにして増やすのがいいかもしれない……そしてダミーのダンジョンを作ってそこを巣穴としてやれば時間も稼げるかもしれない)
でもそうなると無軌道にスタンピードを起こし、被害が拡大する恐れがある。そうなると送られる戦力が増え、今後の憂いを断つために付近一帯の大調査、討伐部隊が闊歩する未来がやってくるだろう。
(そうなれば現状の体制では対応できない……だがそうなれば魔王軍は万々歳だろうな。囮のしての役目を十二分に果たしているわけなんだし……)
できれば融和したい。
だがそれを許してくれるほど種族間の溝は浅くない。戦いの記憶も薄れるどこか更新され続けている。ダンジョンマスターを見逃してくれるほど人族も甘くはあるまい。良くても飼い殺し、それも不自由極まりなく監禁されるだろう。
(くそっ、ストレスが溜まる。自暴自棄になる前にポテチでも食べて心の平穏を保ちたい……)
こんなにもテンションや思考がおかしいのは躁鬱だからだろうか。とても死が身近に迫ってきている奴の思考・感情の起伏じゃない。それとも何かを超越してしまったのか……
(いかんな、今は目の前のことに集中しよう……)
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