第63話「再び森へ」
それから質素ながらも満足な食事を終え、僕は弁当がわりにパンを数個いただけないかと聞くと、問題なく奥さん許可が下りた。そしてすぐさま手早く包んでくれたので、僕は感謝を伝えつつ受け取った。
「こんな粗末なもので申し訳ないね」
「いえいえ、頂けるだけで感謝です」
「そうかい?」
「ええ、本当に」
奥さんの応対に引っ張られるように僕も腰が低くなる。僕個人は満足を感じているのだが、奥さん的にはそうはならないようだ。そこまでのおもてなしを受けるような奴ではないので、気にしないで欲しいのだが難しいだろうか。
(まあでも長い付き合いになる訳でもないし、変に踏み込んでも仕方ないか……)
僕はダンジョンマスターで魔族だ。人族社会との繋がりを深く持つのは避けたほうが無難だろう。人手不足の今は仕方ないが、運営が上手くいけば召喚・生成した奴らに任せることになるだろう。贅沢を言えば現地協力者が欲しいところだ、オネフットやスクイドが機能すればいいが……
「あ、そうだ。これから森に行ってくるので、誰かに聞かれたらそう言ってください」
「はいよ、戻りの時間は決めてあるかい?」
「暗くならない内には戻ってきます」
「……それで足りるのかい?」
「大丈夫ですよ、足りなければ適当に森のをつまみますよ」
そう言って玄関へと向かう僕を「毒に当たるんじゃないよと」と送り出してくれる奥さん。さらに手を振って答えるが、どうもむず痒い。マザコンではないのだが、200年ぶりに味わう母性というものに動揺でもしているんだろうか。
(いかんいかん切り替え切り替え。今日は気力も魔力も十分だ、なるべく色々と集めよう)
僕は逸るように村を出て森へと向かう。
気持ちが少し高ぶる、森までの道中に送られた村人たちの温かい視線や挨拶も影響しているんだろう。昨日までとは打って変わって歓迎ムードだった。その様は「おいおい昨日までの態度はどうしたよ」と笑ってしまうほどで、宴を開いてくれた村長には感謝の念が絶えない。
(これは多少恩返しせんとなあ)
狩りのお裾分けか、ダンジョン産の何かをプレゼントするか、魔術で何か村の仕事を手伝ってもいいかもしれない。
多少打算的な気持ちもあるが、それも恥ずかしさの裏返しだろうか。それとも偽悪的に振舞って何かのバランスを取っているのか、魔族となってなにかしらの影響を受けているのか……前世の自分はどうだったろうか、200年も前だと記憶も薄れており細かくは思い出せない。
(まあでもこうゆう気持ちが消えていないというのは、何故だか嬉しい気持ちが湧いていくる)
魔族であっても心はまだ人間なのだろう。それが辛いと思う原因だったが、今となれば得難い特性とも言える。立ち回り方を間違えなければ、きっと武器になるに違いない。
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