第62話「朝食」
これからのことを考えると素材集めは急務。僕は少しの急く気持ちを感じながらも朝食の席へと向かうーーそこで思った。
村長宅の食事する場所はどこだ。聞いた覚えはない、もしかしたら昨晩に……だとしても記憶にはない。だがかといって家の中をウロウロして探すわけにもいかない。僕にも良識というものがある。
「あのー、誰かいらっしゃいませんか?」
玄関から屋内へと声を上げるが、反応はなかった。誰もいないのだろうか……
だがしかし村長は奥さんがまだ居るかのように言っていた。となると声が小さかったか?
「あのー、すみません!!」
「はーい」
どうやら村長宅は防音がしっかりとしているらしい、これは意外だ。
そう密かに感心していると、程なくして女性がこちらへとやってきた。昨晩も見かけた村長の奥さんだ。彼女は僕を視認すると顔は大変申し訳なさそうにして、待たせてごめんなさいと謝ってきた。
「(そう真剣に謝罪されると、何もしていないのに心にダメージが……)いえいえ気にしないでください」
「そう? ごめんなさいね、却って失礼だったかしら」
「いえいえ、そんなことは……」
なんか抱いていた印象と違うな。僕相手だからか、言葉の色が丁寧だ。
昨晩の印象では村長に手伝いをさせたり、なあなあに作業する様に怒ったりと肝っ玉な印象だった。もしかして人見知りするタイプなのだろうか? でも口調は少し粗野というか、威勢のある感じも見え隠れしている。この人なりの接客モードなのだろうか……
「すみません、朝ごはん頂けるって村長から聞いたんですけど……大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、さあ上がっておくれ」
「はい、ではお邪魔しまーす」
村長宅は実際に入ってみると、屋内は見た目以上に大きく感じた。廊下というには部屋間の幅が広く、複数人が横に並んでもゆとりがあるくらいだ。家が村全体の貯蔵庫も兼ねていると言っていたし、荷物の運搬・搬入なども考えているのだろう。
(村クラスの規模って考えると、村長宅は宿泊施設って側面もあるだろうし設計からこうしたんだろうな)
そう分析するようにお上りさんのように顔を振っていると、奥さんが先導ーーというか先行していた。僕は見失わないように小走りして追いつき、奥さんの後ろをついていった。
そうして突き当たりを曲がり、少し進むと土間のような部屋にたどり着いた。大きめの机と椅子が複数あるので、おそらくあれが食卓だろう。かまども見えるので、ここはオープンキッチンのような場所ーー身内用の食事部屋なのかもしれない。
「さあ、適当に座って待ってておくれ」
「あそこでいいんですよね?」
「もちろんさ」
「では遠慮なく」
僕は適当な椅子に腰をかけると、すぐさま深皿に盛られたパンが置かれ、スープもすぐ持ってくると奥さんは鍋へと向かった。これはずいぶんと手際がいい。
「手伝うことはありますか?」
「ないから座って待ってな」
そう話している間にもスープが用意され、程なくして食卓へと並べられ、奥さんが「遠慮せずに食べな」と声をかけてくれた。
どうやら朝はそう凝ったものは作らないようだ。朝食はパンとスープのみ、別に文句はないが質素だ。
(昨晩の残りものは家族で消費したのだろうか?)
「すまないね、主人と息子が全部食べちまったよ」
「……あ、顔に出てました?」
「ああ、ほんとすまないね……お客さんなのに」
「いえいえ気にしないでください」
どうやら思ったよりも食欲魔人と化してしまったらしい。
身体構造的に必要はないのだが変化している現在、僕の味覚は人族のそれだ。随分と昨日の食事を楽しんでしまったらしい。どうも尾を引いている気がするなーーしかし固いパンだが美味いな、スープも具は少ないが絶品だ。もはや何を食べても美味い状態なのかもしれない。
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