第60話「悪夢」
しかしそんな自殺願望も吹き飛ぶことが発覚した。魔族はなかなかに頑丈さ、そして予想を上回るしぶとさ、極めつけは自然治癒能力の高さである。ナイフごときでは斬れず、首を吊っても苦しまず、魔法を撃ち込まれようと大変痛いだけ。仮に致命傷を負わせられるもので自傷行為をしても、死なぬように治癒していく……もしそれでも命の火を消したいとなれば、そんな痛く苦しい思いを長く味わいながら魔力枯渇を待つしかない。
(それにあの時は変化を使えなかったし、色々といっぱいいっぱいだった。根気の必要な自殺なんて無理無理……)
それからは生きた屍のように淡々と過ごしていた。いつか終わるであろう、その時を祈りながら待っていた。
でもそんなある時、僕は前線に投入された。「ようやく来たか」と感動すら覚えたものだが、いざ本当に死ぬかもとなると不思議なものだ。死にたいのに死にたくないと思ってしまった。
(まさかそれを同時に思うことになるとはなあ……)
無様に生き延びようとした、その時の記憶はひどく曖昧でよく覚えていない。
でもそれを境に扱いはさらに酷くなった。いま思うとパシられていたのは可愛がられていたのだろうーーいや違うな、あれも大概酷かった。
(しかしそこからは雑用というか、面倒ごとを押し付けられるようになったな)
組み込まれていた脳筋集団の面倒ごと。それは意外でもないが知能労働、他との折衝、物資などの管理だった。配属された当初はなんとホワイトな職場だと、これでマシな今世を送れるのではと思ったものだ。
(だがそれも幻想、甘い思い込みではあったのだが……)
できればもうここからは見たくない。
むしろ僕からしたら悪いのはここからだ、思うことも考えることもしたくない、ダメだ、そう傾けた時点でもう色々とーー
「……止めろ、見せないでくれ」
どうやら目が覚めたらしい。
汗が冷たい。呼吸も浅くなっている、苦しい。
「何か、楽しいことを考えよう……」
偏ろうとも、多少浅慮になっても、視野が狭くなろうとも、気分が沈んでいるよりはマシだ。頭を常に回せ、他の方向に思考を誘導しろ、隙がないくらい。
「こりゃあ、ちょっとかかりそうだな……」
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