第58話「危機感あるのかないのか」
そんな展望を感じつつも、やがて愉快な酒宴は終わりを迎える。行商人が来るからと空けた酒樽も、振舞って消費した料理もたらふく食べ、村人達は満足そうに帰っていった。散らかり果てた会場をそのままに……
村長は「明日やればいいだろう」と言っていたが、奥さんらしき人物に怒られ、二人でせっせと片付け出した。
「あの、手伝いますよ?」
「んあ? いいっていいって、客なんだからな」
そんな村長の言葉に多少の押し問答はあったが押し切られ、僕は離れへと行き床につくこととなった。
(久々に、本当に久々にいい酒だった……)
酔っているのもあるだろうが、何を話していたかという細部までは思い浮かばない。でもとにかく楽しかった。話してはいけないことは口に出していないし、問題らしきものも感じない。魔族の僕が言うのも変だが、人らしい文化的なひと時だった。
まあそう思っても多少残念なこともある。まず風呂がない。桶に満たした湯でも頂けないかとも思ったが、後片付けしている人たちにお願いするのは気が引けた。それに貴重な薪を使うのだ、そう気軽に頼んでいいものでもあるまい。この異世界は魔術はあれど、それを習得するための時間も施設も少ない。才能はあれども生きることを優先し、親の家業を継ぐものも多いだろう。
その点に注目すると、まだまだこの異世界は前世には及ばない。
(でも魔術、魔法があるから一概にそうとも言えない。発展しているとこは発展しているし、未開ともいえる場所も存在する……)
それらは前世と変わりないだろう。
日本がそうであったように、諸外国がそうであったように、自分たちの文化を守っている少数部族達がそうであるように……それぞれのスタンスがある。だが前世と違って、この異世界では魔術・魔法が存在しており独自性が顕著だ。分かりやすく文明が発展していても、それが分かりやすく強大な国とも言えない。少数部族の一族が大軍を蹴散らすことだって平気である。
(そう考えると色々と準備をしないといけないな……っていかんいかん、俺は風呂の愚痴から何を考え込んでいるんだ)
とにかく今は色々と収集しなければいけない。魔石も多くあればあるほど召喚・生成時の消費を抑えられる。触媒や素材があれば尚のこと節約できる。それに工費・中間マージンが浮くのだから商売もしやすい。
(でも出来上がる物の質が分からんから値がつくのかも……いかんいかん決まってもいない未来に弱気にさせられるな、今はとにかく油断なく慎重に行動あるのみ)
僕はいつの間にか消え失せてしまった良い気分を惜しみながら、眠るために目を閉じた。
(ダメだな、床に入ると勝手に頭が回る。機械のように任意にオンオフできたら楽なのになあ……)
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