第55話「宴への誘い」
随分と気になるタイミングだが何にせよ早く返事をしなければいけない。見当違いだった場合にしても、変に間を置けばあらぬ疑いを抱かれる可能性だってある。
「居ますよ、どうしました?」
そう言いながら入り口に近づくと、村長がドアを開けて入ってきた。
「悪いな急に」
「別に大丈夫ですよ」
互いに和かに言葉を交わすが、僕の胸中は吹き荒れている。
鍵という存在を気にしていなかった後悔、術によって強化しないと察知能力が皆無なこと、時間的にはまだ早いのが気になる……という気持ちが入り乱れていた。
「なら良かった。歓迎の宴についてなんだが早まりそうでな、大丈夫なら大広間に行くぞ」
「……随分早まりましたね」
窓を閉め切っているので確認はできないが、まだ日は沈んでいないはずだ。培った感覚から色がついてきた頃だろうと思われる。飲むには早い気がするが、これも前世の感覚なんだろうか。
「あいつらも俺も早く酒が飲みたいからな、さあ行くぞ」
実にいい笑顔だ、飲むために仕事を早く終わらせたのだろうか。
そんな疑問を抱いていると僕は連行され、大広間へと引きづられる。まったく異世界仕様な人族の力も侮れない。巨漢とはいえ成人男性を苦もなく運ぶのだ。これが術によって強化されたり、恩恵ある魔道具・装備すれば魔物とも渡り合えるだろう。もちろん質にもよるが、言い換えれば優秀なバックアップ次第で十分な戦力となるということ。
(これでも人族では弱い方だろう……変化を解けば余裕だが、数で来られたらダンジョンは陥落するな)
僕はいつの間にか現れたネガティブ思考に沈みかける。
もしこれで勇者とかいうバグを差し向けられたら打つ手はないだろう。職業軍人・騎士や傭兵・冒険者などでも大挙してきたら現状では難しい。というか自警団が来られてもキツイのではないだろうか。相手とこちらの作戦次第ではあるが下手をすれば陥落しかねない。
(ダメだ、冷静に考えすぎると沈みきる。何か生産的なことに頭を使おう、今は情報収集と交渉だ……)
いかん、首が締まってるからか気が遠のく。変化したらここまで能力落ちてるのか。色々と考えもんだなこれはーー
「いよっ、待ってました!!」
広間に着いたのだろうか。
その声を皮切りに歓迎するような声が次々と上がる。というかいい加減この体勢から解放して欲しい。村長が村人達であろう声に応えるたびに姿勢が揺らぐ。首を起点に振り回されるので大変息苦しいし、下手をすれば落とされかねない。
「(もし気を失ったら変化ってどうなるんだろうかーー)村長、いい加減放してくれっ」
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