第49話「オネフットの相方、スクイドという男」
そこからの変化は凄まじかった。五体満足の男は土下座のように頭を下げて許しを請い、オネフットは片足ゆえに挙動が遅れたが同じような姿勢を取ろうとーーしたところで焦れた相方に無理やり頭を下げられた。
痛そうな音が響く。容易に額が割れただろうなと確信させるような生々しいものだった。無意識に痛みを共有・想像して眉が寄ってしまう。しかしオネフットは身じろぎせずに頭を下げづつけるので、もしかしたら大したことにはなっていないのかもしれない。
「申し訳ありませんでした!! どうか平に、平にご容赦をっ!!」
「……えーと、まず名前は?」
「スクイドと申しますっ!!」
五体満足の男ことスクイドは面を上げないままそう答えた。
その語調・雰囲気は疑う余地のないほど切羽詰まっている。これほどまでに全霊で謝罪していると思わせるのは一種の才能かもしれない。対してオネフットは固まったまま動かず、まるで意識がないかのようだ。本当に気を失っているんじゃ……
「とりあえず交渉を再開しよう」
「ありがとうございますっ!!」
なんだろう、すごくやりにくい。
気持ちとか感情とかが無駄に伝わってくる。前世にもこうゆうタイプがいたが、それの比じゃない。些細なことでも良心の呵責を覚える僕にとっては、最早言葉とか挙動一つ一つが武器だ。悪人にはこれ以上ないカモなんだろうがーーいや、逆に裏が見えなさすぎることに警戒するかもしれない。
「で、どこから話したらいいかーー」
「ほぼほぼ最初から聞いてたから大丈夫ですっ!!」
なんだって、いやそもそも言うかそれ。
僕は直情とカテゴライズしかけてた男ーースクイドの認識を改める必要があるのではと思った。この敬語も、思わせる態度も偽りで、案外思慮深く忍耐強い奴なのでは。と思うも、スクイドの姿を見ると霧散しかける。全くもって奇妙な存在だ。元々他人のことなど理解できてない僕だが、本当に掴めもしないタイプなのかもしれない。
「じゃあ行商人をやってもらいたいんだがーー」
「喜んでっ!!」
「……ゴーレムを護衛につけるのもーー」
「大丈夫ですっ!!」
何か裏があるのではという気持ちと、そう思わせないほどに気持ちのいい返事。疑わしいが、考えすぎではと思わせる。
全くもって訳がわからない。
(どう思う?)
(人の機微はわかりません。申し訳ありません)
(……まあ、ゴーレムだもんな)
次は参謀になってくれる奴を、僕はそう固く思った。
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