第47話「急にどうなってんだ」

 男が石刃を投げてきた。恐らく離れた隙に石と石をぶつけ合い欠けさせたものだろう。脅威を覚えるようなものではない。

 だがこのような物でも目などに当たれば怪我をする。もちろん命に関わるほどではないが、一瞬でも視界を奪われれば戦闘に支障がでるし気分のいいものではない。


「……どうゆうつもりだ?」


 僕は払い落としても油断せずに問いかける。

 ここまできて敵対するとは予想外過ぎる。位置関係や力量差をいくら考えても、正気のものが下せる判断とは思えない。


(気でも触れたか……?)

(マスター、攻撃の許可を頂けませんか?)


 今回ばかりは無機質に聞こえないゴーレムの声。怒りを容易に感じさせるほど、声色に色濃く反映されている。

 気持ちは嬉しいが、勝手な行動をとらせる訳にはいかない。


(待て、ないとは思うが勝機あっての行動かもしれない。こちらからは仕掛けるな、だが即応できるようにはしてくれ)

(承知しました)

「……どうやら事前に命令してないってのは本当らしいな」

「……まさかそれを確かめるために?」


 男は表情だけで”そうだ”と答える。

 だとしたら思い切りのいいことだが、本当にそれだけか? どうにも腑に落ちない。いくらそれを確かめるといったって僕の気分次第では命の危険もあった。なにか裏がるのか、それとも知らない内に何か状況が変わっているのか……僕は周辺の警戒も怠らないで全体を見つつーーん?


「お前何してやがるんだこのタコ!!」


 もう一人の気絶している男が跳ね起きてオネフットの胸ぐらを掴む。その表情は悲しみとも焦りとも取れる複雑なものだった。

 それはともかく、気が付いていたのか。全く察知できなかった、何か特殊技能を持っているのか? それとも僕の油断が想像以上だったか……


「うるせえ!! 殺されるなら役立たずの俺だって決めたじゃねえかこのイカあ!!」


 僕が警戒しながらも思考を回している内に彼らの喧嘩は続いていく。僕なんて存在していないかのようにーーまあ、怒り心頭な様子だし瞬間的に前しか見えていないんだろうが……そう思わせるほど凄まじい乱れっぷりだ。


(マスター、如何しましょうか)

(……そうだなあ、なんかベラベラと喋ってるし少し静観しよう。情報収集になる)

(承知しました)


 今までの苦労はなんだったんだ。

 聞きたかった情報がボロボロと出てくる。棚から牡丹餅、正しい努力をしなければ報われはしない。しかしそれも運と偶然、見えざる手によって左右される。なんだが疲れてきた、徒労とはこんなにも骨身にしみるものなんだろうか……

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