第46話「思慮深いのは美徳だが、相手にするには難儀」

「……聞きたいことがある」


 一転した声。いったいなにを聞きたいのだろうか……


「なんだ?」

「ゴーレムは俺達の命令も聞くのか?」

「もちろん。多少制限はあるがな」

「制限?」

「例えば僕に危害を加えたりすることは命令できない」

「……なるほど」


 そんな風に言わないでほしい。邪推してしまう。


「それと命令権の優先順位だ」

「……どういう意味だ?」

「ゴーレムが何か命令を実行していても、僕が命令を出せば優先して処理されるってことだ」

「……なるほど」


 これについては僕は少し嘘をついている。

 一般的なゴーレムはマスター登録を済ませる必要があるが、ダンジョンモンスターであるゴーレムには必要ない。それに念話による会話もできるので、普通のゴーレムよりは応用の効いた柔軟な対応も可能だろう。


「それはいつでも約束を違えて俺たちを殺せるってことか?」


 それは間違いではない、ないのだが……

 随分と痛いところを突いてくる。疑念もここまでくると感心すらしてしまうな。


「可能か不可能で言えば可能だが、実際には不可能だろう」


 苦しいがこう言うしかない。


「何言ってやがる……」

「行商人をやって僕から離れれば、こちらに命令する機会・術はない。だから難しいと言っている」

「……なるほど」


 これも心苦しいが嘘だ。

 もし下手に話して不信がられる訳にもいかないし、ダンジョンマスター固有の能力とかの可能性がある。僕は寡聞にも魔法生物と念話ができるなど聞いたことがない。念を入れても入れすぎということはないだろう。


「でも事前に命令を仕込んでいなければ、だろう?」


 男がそう言った。

 確かに彼の言った通りだ。しかし野盗などに身を落とした奴は、悪いことに関して知恵が回るようにでもなるのだろうか。そう抜け穴にグイグイ食い込まれると、まるで僕が意図的に事実を隠蔽している奴みたいだ。まあ心情はどうあれ結果そうなのだが……


「それはやっていない」

「だがそれを信用できる訳がない」


 気持ちはわかる。

 わかるのだが折れてくれないだろうか。思慮深いーーいや疑り深いのは、時と場所によっては大変素晴らしい資質だとは思う。だが相手とするには面倒ここに極まる。


「じゃあどうしたら信用してくれるーー!!」

(マスターっ!!)


 くっ、我ながら油断した。

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