第42話「不安を取り除こう」
待遇といっても普通に行商人か冒険者をしてもらう予定だ。だがしかしそれだけでは弱い、あまりにも魅力に欠ける気がする。これは手札を切っていく必要があるーーかもしれない。
ここは慎重にやらせてもらおう。
「君達には冒険者か行商人をやってもらいたいんだが、それに関わる初期投資はこちらが持つ」
「具体的には?」
「金貨を10枚ほど用意する」
表情が変わった。
やはり金貨は僕が思うよりも大金らしい。その理由は貧富の差からか、金銭感覚によるものか、それともこの国の物価など経済的なものなのか。追い追い調べる必要がありそうだ。
「足らないか?」
「い、いや多いくらいだ」
「足の治療代も賄えるか?」
「ちゃ、ちゃんと選べば十分過ぎるはずだ」
気になる言い方だな。
ちょろまかそうとしてるんじゃ、と思ってしまうのは心が荒んでいる証拠かもしれない。きっと良心的なとこもあれば悪徳なとこもあるのだろう。信頼してもらおうと思ったらまずは信じなければ……得ようと思ったらまず与えよ。
いかん、いかんぞ。魔族になって200年、当てられ過ぎてしまったか。
「なら冒険者や行商するのも大丈夫そうだな」
「……ああ」
「もし希望があれば聞くがどうする?」
「希望?」
「冒険者か行商人か。他のでもいいが、色々な物を扱うと考えると商人がいいと思ってるんだが……どう思う?」
質問を投げると真剣に考え込んだ。よしよし、我が事のように考えてくれている。まあ自身のことではあるんだが、いい傾向だ。
さて、この提案どう流れるか。僕側から見れば冒険者なら受ける依頼によっては希少な素材が手に入る。さらにこちらから援軍を出せば対応力も上がるだろう。だがしかし、商人なら扱う商材・金銭力次第で、質と量どちらもカバーできる。それにコアの生成次第では安く仕入れて高く売ることも可能になるのでは……やり過ぎは禁物だが夢が広がるな。
うーん、希望を聞いてしまったが商人が色々と都合がいいな。選んでくれるとありがたいんだが……
「……俺たちは戦う力がない。だから冒険者は無理だ」
「じゃあ商人だな」
「やるとしたら、そうなるな」
考えて自分なりの答えを出している、いい傾向だ。
それに僕も彼らには冒険者は荷が重いのでは、とも思っていた。前世同様ステータスなんてない世界、経験値を得てレベルアップ!! なんて分かりやすい指標も段階もない異世界だ。全て相対的感覚・経験則で成り立っている。魔術も超人的な戦闘能力も、才能がなければ宿らないと言われている。神の恩寵扱いだ。
努力と結果をイコールで結べず。頑張ればどうにかなるかも分からない。
(知恵を絞らんとな。才能のない僕らが生き残って人生を謳歌するには……)
さて、そのためにも彼らの不安をもっと消さなければ。
「やってくれるなら護衛も用意しよう。最初から店を持てるほどお金を用意できない、せめてもの詫びだと思ってくれ」
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