第39話「信頼を手に入れたい」
嫌な汗が流れているのを感じる。妙に生々しく鮮明で、輪郭を不規則に流れ這っているのがわかる。
不味い、何かを言おうにも不安が先走る。諸々の優位性はこちらにあれど、目的と着地点を考えると劣勢だ。下手にこちらから仕掛けないほうがいいか……警戒心を膨れさせては交渉に支障をきたす。たとえ魅力的な提案をしても信じられなければ、それは胡散臭い話だと決裂する。
「なあシンジさん」
「……なんでしょう」
「確かあんた、仲間に引き入れたいとか言ってたよな?」
まさかそっちから話を振ってくれるとは思わなかった。細かく説明できるのはありがたいが、信頼の”し”の字も構築できていない。この状態で切り込むのは賭けに近いがーー
(いや、そうゆうことか……?)
彼が未だ目覚めぬ相方をチラチラと見ている。
確証はないが彼の身を案じて交渉のテーブルに着いたのか。それとも起きるまでの時間稼ぎをするためか。確信までには程遠いが、少なくとも話し合いに応じてくれている。いまの彼は冷静だ、”リ"(理・利)で説けばいけるかもしれない。
「ええ」
「いったいどうゆう……なんでなんですかね、詳しく話しちゃくれませんか?」
できるならもっと相手の情報を得たかったが、完璧に話さなければいけない流れだ。これは変にこじらせるよりは一旦材料を提示するのも有りかもしれない。
それから僕は仲間になってほしい旨を伝えた。もちろん話せる範囲で。素材を欲していること、良ければ行商人か冒険者として活動してほしいこと、その傍らでいいから自分に素材や物資を売って欲しいことなど。
「……シンジさん、それは別に俺らじゃなくてもいいんじゃないですか? 自分でやれるんじゃないですか?」
「確かにそうなんですが、僕も色々と手が回らなくて」
これは本当だ。
自分だけでも可能ではあるが、その体制ではいずれ限界がくる。それに人族の生存圏内で活動できる存在の手を借りたい。魔族やそれに準じる存在では大都市の検閲を突破できないし、忍び込むにも見つかった時のデメリットがでかすぎる。
「じゃあ何で俺たちに? 依頼するならもっと他にいるでしょう」
足のつかない存在の手を借りたい、というのが本音だ。しかしそれを言ってよいものか……迷いどころだ。もしそれで納得してくれるなら話は簡単になる。互いに後ろ暗いことをする仲間になり、深く詮索されることもなくなるだろう。
だがそれでは待遇次第で飛んでしまう可能性も発生する。裏切られることもあるかもしれない。監視にゴーレムを付ける予定ではあるが、できれば彼らとは信頼のある関係を結びたい。どうにか彼らには善意・厚意で”ゴーレムを護衛として付けてくれた”と思ってほしい。
「(さて黙ったままではいられない、どう話を持っていくか……)それには理由があるんだ」
考えろ、頭を回せ。
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