第37話「僕的交渉術」

「ここは?」

「洞窟だ。取り敢えずここに避難させた」

「洞窟?」


 男は周囲を確認する。その顔は不安そうでもあり、不思議そうでもあった。しかし受け入れ始めているのか、徐々に表情は地に足がついてくるーーが、もう一人の存在を視界に収めると一転。溺れすがるように相手に近寄り、ひび割れたように言葉をかけ続けだした。

 そんなに勢いよく揺さぶるのはマズイ、現状不都合がなくても発生してしまいそうだ。どこかに当たったらどうするんだ全く。


「彼は大丈夫だ、起きるまでそっとしておこう」

「おい大丈夫か!! 起きろしっかりしろ!!」


 どうやら聞こえないほどの状態らしい。僕は仕方なく取り押さえるかのように引き剥がし、聞こえるまで言い聞かせる。

 大丈夫だ。ここは安全だ。彼もいずれ起きる。今は休憩させてやろう。君がそんな状態では彼が目覚めた時に不安がらせてしまう。今のうちにこれからのことを話し合おう。僕も協力する……などなど。なるべく優しく言い聞かせ、ようやく錯乱とも言える状態を脱した。


「……悪いな、落ち着いた」

「気にするな」

「……ああ、悪いな」

「まあ気にするな……」


 僕はこのまま言葉をかけずに相手のアクションを待ってみることにした。

 案の定、気まずく息苦しいような沈黙空間が発生しだす。男は視線をさげて考え込むように黙り込み、僕はただただ相手の言動を待つ。

 何か言葉をかけたくなるが我慢だ。ここは黙って相手の言葉を引き出したい。会話の主導権を渡して少しでも情報を引き出す。そして効果的な切り出しタイミングを見極めたい。なんせ僕は彼らの立場も経緯も知らない、どのような交渉材料が有効かもわからない。持っていきたい着地点はあっても道を違えれば容易に失敗する、それほど味方になってもらうというのは難題だ。それに僕は魔族でありダンジョンコアだ、嘘も絡めつつやらなきゃいけない。

 気が重いがやり遂げるしかない。いつまでもマスターがダンジョンを留守にする訳にはいかない、そんな体制のままでは身の破滅だーー


「……なあ」

「なんだ?」 


 男が話しかけてきた。気を引き締めよう。

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