第36話「二歩目の交渉」

「おお、話は済みましたかな?」

「ああ」

「しかしこの隠し部屋はいいですな、力がみなぎります」

「はは、それは良かった。ところでスケルトン」

「何でしょうか?」

「保護した男たちはどこに?」

「それでしたらあの奥ですな、ここからは見えませんが……」


 スケルトンはそう言いながら立つ場所を変え、横穴の奥に顔を向けた。暗くてよく見えないが、アンデットにはよく見えているのだろう。確信を持った声で「ああ、あそこです。死体みたいに」と指をさしている。

 うーん、目が慣れれば見えてくるかな?


「取り敢えずちょっと交渉してくるわ」

「まだ目を覚ましていないようですが……私が起こしてきましょうか?」


 それはダメだ、ただの人族にアンデットは刺激が強すぎる。


「いや大丈夫だ、コアを守っといてくれ」

「……そうですな、念のために備えておきましょう」

「頼むわ」


 そうして隠されていない部屋をきちんと隠蔽。もちろんスケルトンもそこに詰めてもらい、僕は一人で奥へと足を進めた。

 程なくして横穴の突き当たりに到着し男達を発見。本当に死体のように力なく転がっていたので、思わず生きているかを確認をしてしまった。


(脈もある。体温も問題ない。顔色は暗くて良く分からないが偏った色には見えないし、造形も崩れてないし、妙な斑点もない……うん、大丈夫そうだが)


 確認しても生きていると思えないが、取り敢えず起こしてみよう。

 さっそく僕は水の初心者魔術を詠唱し、魔力をほとんど込めないで発動させる。すると指先から控えめに放水され、目標にしていた男の顔に降りかかった。


(おお、思ったよりも水が出るな)


 きっと魔素濃度やコアが近くにあることが影響しているのだろう。普段の感覚とズレがあるーーっと目を覚ましたな。

 溺れかけたような呼吸をしながら男が跳ね起きる。とても苦しそうだ。犬のように頭を振って水を切り、現実感半ばのような目を動かして周囲を見ている。


「……あんたは確かーー」

「無事で良かった。不調とかはないかい?」

「……ああ」

「足の方も大丈夫か?」

「……ああ」


 男は失っている足に目を向けながら、力なく返事をしている。

 相手の弱みに付けこむようで気が引けるが、彼から切り崩す。二人にとっても損はない、そうまとめているし大丈夫のはずだ。

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