第29話「不覚をとった相手とは……」

 ああ、だるい。

 浮上するように湧いた意識でそう思った。どこかぼんやりとした輪郭を描く思考、張りついたような瞼、絞りきられたかのような喉。体は柔らかく固まっており、どこか鈍い重みを感じる。

 ただ漠然と怖いと思った。自分の体ではないと思った。でもそれは緊張をしいるような感じではなく、どこか自然と腑に落ちるような、当たり前のような印象。不思議と心地よい恐怖だった。


(そうか、確か、何かに……)


 おぼろげながらも思い起こされる。

 気を失う前の激痛、骨を抜かれたかのように崩れる足元、消えていく体の感覚。

 そうだ、僕は確かーー


(……ここはどこだ?)


 薄く開かれた目に映るのは薄暗い岩肌だった。


「おお、目覚めましたか」

「……ぁ」


 僕は声のした方向を見る。そこにはスケルトン存在していた。そうか、ここはダンジョンか。なら安全だ。ほぐれるような安心感が広がる。


「まったく、生きた心地がしませんでしたぞ」


 スケルトンの言う通りだ、生きた心地がしない。思い描いたよりも体は動かないし、反応もどこか鈍い。いったんなんでこんな事に……俺はなんで助かったんだ?


「なん、で」

「こちらも色々と聞きたいですが……まだお話できる様子ではありませんし、私から説明しましょう」


 それからスケルトンは色々と話をしてくれた。僕がダンジョン近くの場所で倒れていたこと、危険を察知し救難に来てくれたこと、連れてきた男2人を隔離して保護していること、戻ってくるまで異常はなかったこと。

 でもここで気になることがある。正体不明の敵についてだ。戦闘があったのか、倒したのか追い返したのか、交渉したのか、それともすでに姿はなかったのか……情報が欲しい。


「敵、は……」

「敵? ああ、あの蛇のことですか」

(蛇、だって?)

「我がマスターともあろう方が情けない。たかが野生生物に遅れをとるなど……」


 それから話の聞くのは苦行だった。どうやら僕はただの毒蛇、野生生物に不覚をとったらしい。認めたくない、いくら人族の姿に変化してたとしてもそれは……情けない話だ。

 いや魔族の状態より能力や耐性が下がるので、ありえない話じゃない。ウサギでもあれなのだ、毒を持つ蛇が脅威であるのは当然。噛まれればああなるか……


(これは、色々と装備を充実させないと活動に支障がでるな……)

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