第28話「油断なき敗北」

 移送しながらも悩んだ末、僕はダンジョンに運び保護することにした。あそこならば薬草の類と多少の素材、魔石があれば回復薬を作れるはずだし、森の中よりは安全だし逃げられる心配もなくなる。それに多少も打算もあるし、今後にとって都合がいいかもしれない。


(そうと決まれば気絶しているうちに距離を稼ごう)


 僕は身体強化の強度をあげて速度を上げる。

 今回は隠密や温存ではなく時間をとることにした。時間は有限だし、距離的には急げばそう遠くない。それに気絶している今なら遠慮せずに行動できる……色々と結果オーライかもしれない、道を急ぐとしよう。


(まあ、かといって油断はできない……僕1人で守りながらの戦闘はきつい)


 その回数とその質にもよるだろうが、守りながら戦ったり逃げたりするには魔力の残量が乏しい気がする。それに数で来られれば万が一もありえる、無駄な戦闘と消耗は避けるべきだろう。

 それにもう一度村まで行くのにも魔力が必須だし、いざという時を考えると出来うる限りの温存は心がけたい。探知や感知を駆使しながら会敵の可能性を潰していこう。もし知恵の回る個体に視認されれば、この状況を放ってはくれまい。その時支払うことになる代償に比べたら、探知での消費魔力は必要経費。微々たるものだ。


(どこに何が居るかはきちんと把握しておこう……)


 僕は慢心せずに弱めの魔力探知を放ち警戒を厳にするーー障害になりそうな反応はない、切り替えて動体探知を弱めに放つーー進行方向に反応はない。だがそれでも油断せずに熱源感知を構築。

 よし、目立ったものは確認できない……でも慎重かつ迅速に行動しよう。


(この調子ならもうすぐ着くナっーー!!)


 突然襲う激痛、くらむ視界崩れる足元。

 反応はなかった、一体何が何処からどうやって。視界内にはなにも見つけられない。僕は反射的に苦手な状態異常回復を構築する、気休めにしかならなくとも進行を遅らせれば何か活路がーーだが頭が回らず発動はしなかった。


(くそ、魔術が構築できないほどに影響が……)


 相手はどこに、攻撃手段は遠距離からの狙撃か? 状態異常もあるから付与された魔道具の投擲か、いや特殊能力の持つ個体か……まさかそれほどの存在がこの程度の領域に?

 だめだ指先すら動かせない、目が霞む、意識が……


(もう保たない……)


 僕は迫りくる物音にも気づけないまま意識を手放すことになった。

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