第26話「こちらも相手も下準備」

 僕は時折見える群れの行動が変わったのを感じたので、弱めの動体探知を連続で放つ。


(……ふぅ、こっちを警戒している様子はなし。と)


 感じられたのは群れの包囲網形成準備だった。彼らを囲むように散り、回り込み息をひそめるチーム・背後から距離を縮めるチーム・逃走経路を限定するために左右に分かれたチームと、着々と下準備が進められている。

 これでは彼らは逃げられない、もし二人が五体満足だったとしても難しいだろう。


(相手の数から考えると戦闘は避けたいなあ……)


 相手の数と僕の実力から、守りながら戦い抜くのは難しい。僕一人なら迷わず逃走を決め込むだろう。彼らを助けるためには先手を取って、相手に狩りを諦めてもらうしかない。

 しかしそれでは彼らに恩を売れない。下衆な思考だと思うが、僕もなりふりは構ってられない状況でもある。なんせ命のリミットは1ヶ月ーーここで疑問が浮かんだ、なぜオークの死体を放置して彼らを襲う算段をしているのだろうかと。食料を得るだけなら狩りをすることよりも容易だし、それにオークの方が食える量も多い。


(ならなんで……ゴブリンの悪臭が思ったよりも残っているのか?)


 僕自身は鼻が慣れてしまったので感じられない。だがもしゴブリンの臭いによって気づいていないのなら、視認させる必要がある。幸い彼ら2人の歩く速度は遅かったので、あの場から全く離れてはいない。ここからなら一息で着けるほどだ。


(すぐに取ってこよう)


 僕は身をひるがえしてオークの死体がある場所まで向かうと、漁られている様子もなく解体された時のままで放置されていた。すぐさま近場に着地し、周辺を警戒しつつ身体強化を発動。巨大なオークを肩に担いで駆け出した。


(くそっ、重いな)


 もっと魔力を込めれば軽々と運ぶことができるが、ここは温存と隠密性を優先。決めるべき時のために残しておく、距離も近いのに無駄遣いする必要はない。だがしかし情報を得るためには惜しむつもりはないーー動体探知を発動。


(ふう、どうやらこれからみたいだ……こちらを警戒している様子は、ないみたいだな)


 使用する魔力量を小さくしているためか、群れという油断があるのかは分からないが、相手にこちらを警戒している様子は感じられない。それとも獲物に集中しきっているのか……

 その時、群れが間合いを縮め出しているのを感じられた。包囲する陣形も手負いの人族2人に対して隙はなく、地上をどの逃げようとも素早く対応することができるだろう。


(今のうちに注意を引くための魔術を仕込んでおこう……念には念を入れて使用魔力は小さく、そして出来るかぎり精度と強度は高くして……)


 僕は片目に施していた熱源探知を解除し、ある術を待機状態にするために構築ーー魔力を少しずつ込めていきながら小声で詠唱をし、唱えきってからも発動に足る魔力を込めきらず、発動までのタイミングを操作ーー待機状態を維持する。

 これでいつでも魔力の込める量を操作すれば、即座に発動できる。それも今回は詠唱の工程も挟んだので、効率も良く精度・強度も多少高めだ。


(あとはタイミングよく叩き込めればいいんだが……)

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