第25話「卑怯かもしれない計画を始動」
僕は男たちから視線を切ってからも、ある程度距離をとるように離れた。万が一でも尾行するのを見つからないためだ。しかし一息で駆けつけることができる間隔も維持しなければならない。これからの関係構築のためだ。
(卑怯かもしれないがここは森の中、状況を利用させてもらう)
自分で言うのもあれだが相手はケガ人を抱えている。それも足の欠損という移動には致命的な状態だ。街道までがそこまで遠くなかろうと、弱った獲物をただ逃がしてくれるほど自然界はそう甘くはない。
(ここまで離れれば万が一察知もできないだろうし、尾けるか……)
今回は相手に魔力を感知する術はないので、魔力は絞らずに追跡を開始する。しかし大規模な魔術を使用すれば技術がなかろうが感付かれる。なので多くの魔力を必要としないもの、精度や強度を高めないように多くの魔力を込めないこと、という制約を定める。
(位置情報掴むために魔力感知、狩る側の行動を知るために動体ーーいや、身体強化で俯瞰位置から監視すれば……いやそれだと音で気づかれるかもな)
結局僕はバレないほど離れた位置から俯瞰、監視することにした。しかしそれだけだと間に合わないので身体強化は待機させ、動体探知はある程度こまめに発動、片目には熱源探知をまとわせる布陣にする。
情けない話だが、これは僕の処理限界に近い状態だ。多くの優秀な存在は常に何十もの魔術を走らせ、並行して発動させたりする。しかもそれは魔族に限らず、人や魔物、精霊や野生動物に至るまで貴賎を問わない。魔族が野生生物に負けるかもしれないのだ、この異世界は。
全くもって設定がむちゃくちゃだ、転生当初は魔族っていうのはもっと絶対的な種族だと思っていた。しかし虚しいかな魔術でまかなっている世界かつ魔族という傲慢な侵略国家には、日本の知識というものは案外役ただず、信頼もない落ちこぼれの言葉に耳を傾けてくれる存在はいなかった。まあ、それを成す素材がないというもの大きかったがーー
(いかんいかん、今は尾行に集中だ)
飛び移る木から遠くに見える男二人、まだあの場を離れてはいないようだ。遠くて詳細までは確認できないが、どうやら切り飛ばされた足を拾っている。きっと教会など回復魔術に長けた者に治してもらうためだろう。
(欠損部位のあるなしで難易度が変わるらしいからなあ……)
そう僕が回復魔術に対して考えている内に彼らの準備が整い、ふらふらと歩き出した。
僕は開ける目を変えて熱源を見つつ、とりあえず動体探知を放った。そこから得られた情報はわかりやすく、彼らに合わせて移動する個体が感じられる。
(まとまって移動しているから群れか……偶然に近かったか。後者なら勝手に争って数を減らすだろうな)
そう当たりをつけながら感知地点を見ようとしたが、茂みに隠れて目に施した熱源感知では確認できなかった。なので僕は開ける目を変えて普通の視界に戻し、彼らとの距離を保つために移動を開始する。
(んー、さっきの群れも同時に監視できる位置どりが望ましいな……)
僕はなるべく音を立てぬよう身を踊らせながら、尾行の経路を修正。彼らを挟んで捕捉した反応と並行する形にするーー向こう側に並走する群れが一瞬見えた。
(灰色っぽい色で、大きさはそこまでではなかった……狼とか野犬なら群れ確定だな。少なくともゴブリン、オークには見えなかった。野生動物かそれが魔物化したものかもなーーこれなら)
僕は動体探知ではなく魔力感知を放ってみる。感じられた反応は例の群れとその他の動植物、そして距離離れて森を徘徊している生物。続けて動体探知ーー感じられた結果は、あの群れ以外に彼らを狙って移動しているものはいないというもの。
(待ち伏せて息を殺している奴がいなければ、あいつらだけだな……)
でもすぐ襲ってこないのは警戒しているのか、それとも他に競合している存在を確認しているからか。まだ決め手に欠ける情報ばかりで確信には程遠い。かといってあの群れだけにリソースを割けば、周囲の警戒が疎かになる。
(やっぱり共に行動できる仲間が欲しいところだなあ……)
そう現状に不満を抱いていると、状況が動き出したーー
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