第24話「交渉一歩目」

 僕はここで思い出した、何を思ったかネットで調べたFBIの交渉術のことを。急いで頭の中を探る……確か傾聴・共感・ラポール・影響を経て交渉の成立だったはず。最初は傾聴からだ、なんかポイントがあったような気がする。

 確かあれは……そうだあれだオープンクエッションだ。


(意味は確かイエスとかノーとか簡単な答えでは済まされないざっくりした質問をして、相手の情報を引き出すように投げかける。だったか……他もーーうん覚えてるなうん)


 かといって訓練もしていない僕に、いきなり実践できる訳もなし。だがしかし、ぶっつけ本番付け焼き刃の交渉がスタートする。


「(かといって何から聞けば……ってまずはこれか?)僕は君たちを仲間に引き入れたいと思っているんだが、どう思う?」

「「……」」


 うーんなんということだ、これはきっと失敗した。疑念が深まったなとわかる変化を感じる。目の色も揺らいでいるし、身を寄せて後ずさっているし……目標から遠ざかっているんじゃないなろうな。


(だがしかし、こちらの目標と着地点は伝えた。あとはそこを目指すだけだ)


 しかしその意気込みもむなしく、痛いほどの沈黙空間が広がっていく。もちろん相手も僕も喋らない、でも僕は相手に喋らせたいので男たちが口を開くのを待つ。ひたすら待つ。

 だがそこからは残念ながら我慢比べのような苦しい静けさが続いてしまう。僕はそのあまりの長さに、とうとう考えを変えざるおえなくなった。


「(いくらなんでもこれはダメな流れな気がするな)君たちから何か要求とか希望とかはあるか? なんだっていい」

「……殺さないでくれ」


 そんな懇願に同調するように、守られている男も震えるように頷く。

 んーしかしこの守られている男は喋らないな、怯えている以外の情報があまり得られない。まあ足を切り飛ばした相手とは積極的に話せないか……今はこっちの矢面に立っている男を優先しよう。


「……大丈夫だ殺さない。君たちに危害を加えた僕が言っても説得力ないかもしれないが、僕は君たちを殺すつもりはない」

「「……」」


 ダメだ会話が引き出せない、もっと何かないのか相手が喋りたいような質問は……これか?


「他に何かないか? できる限り叶えたいとこちらは思ってる」

「……見逃してくれ」


 これは叶えられない要求だなーーいや、流れを変えられるかもしれん。


「……わかった。望むなら僕はここを離れよう、他の逃げた男たちと同じように見逃してもいい」

「本当か?」

「ああ本当だ」

「……じゃあ見逃してくれ」

「大丈夫だ嘘じゃない、今からここを離れる。好きに逃げてくれいい」


 僕は両手を上げながら立ち上がった。そして警戒心を刺激しないようにゆっくりと下がる……茂みで視線が切れるまで敵意はないとアピールしながら。


(よし、これで上手くことが運べばいいんだが……)

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