第19話「異世界の狩り事情」

 狩りといってもここは異世界なので、前世とは勝手が違う。まず基本的に野生動物の能力が高い。例を挙げるとウサギは木の枝に飛び乗るほどの脚力があり、危機回避能力も段違いに高い。

 おそらく魔素の影響だ。あいつら小動物のくせに気配察知系の魔術も普通に使うしな……転生して間もない頃は驚愕したものだ、うんうん。


(さて、まずは果物を適当採取しつつ追い詰める感じかなー……)


 僕は動体探知を唱えつつ木の枝に飛び乗り、枝から枝に移動しながら果物を採っていった。そうして術を完成させるとすぐに探査の波を飛ばす。反応は至るところから感じるが、まずは手近な奴を標的にする。


(よし、こっちだ)


 狙いは近場にいた弱めの反応。まだ森の浅い地点なので、おそらく小動物、または野生動物の可能性が高い。

 手早く仕留めて次の予定に移るとしようーー


「……気取られてる?」


 相手の動きが妙にいい。僕は可能性を潰すために動体探知を魔力反応に切り替えてみる。


(反応は小さい……なら警戒心が強く戦闘能力の低い個体か、擬態している個体のどちらかだな。もしくは罠ーーおびき寄せている可能性も)


 通常ソナーのような働きをする動体探知を察知すれば、動きを止めるか素早く移動するの二択だ。たらたら移動するのは魔術を察知できないほど弱い個体か、知恵の回る個体、または強さを隠している個体の3通り。

 今回は3通りのパターンだ。しかし妙な動きをするので弱い個体ではないと思うーーだがそれも視認しないとわからない。

 僕はある程度の距離まで近づき、探知を放出系ではなく強化系に切り替えた。呪文で完成させたのは遠見の魔術ーー身も蓋もない言い方をすれば、肉眼を望遠鏡化する魔術だ。

 このくらいの遠さならまだ交戦距離じゃあるまい。たとえ魔力の動きを感知されても獲物を逃すだけだ……もし相手が強大な存在だったら? いやいや、そうだったらこの辺りはもっと閑散としているはずだ。


(……いた)


 ウサギだった。なんの変哲も無い野ウサギがひょこひょこと移動している。間抜けなほどに愛くるしい。


(だがまだ野ウサギと確定したわけじゃない)


 幻術の可能性もある。僕は陣を描いたーー魔力濃さをを色として認識できるようになる、魔力探知の身体強化版だ。素早く書き終えた僕は魔力探知されていないのを確認し、素早く魔力を込めて術を完成させる。なるべく探知されないようにするためだ。

 以前のように一つのことに集中しすぎて外野に奇襲されるのはゴメンなんだぜ。


(……ただの野ウサギみたいだな。納得いかねえ、さっき感じた違和感は錯覚か?)


 念のために周囲も確認する。杞憂もはなはだしいが、弱い個体を誘導して釣りをする存在もいるのだ。油断してはいけない。


(周囲に敵影なし、潜んでる様子もない……よし、では仕留めさせてもらおうーー)


 野うさぎが駆け出した。その速度は弾丸、しかも速さを維持したまま転がるラグビーボールのように不規則だ。


(くそっ、ほんの少し殺気を出しただけでこれだ!!)


 効率を無視して詠唱を省略して身体強化、動体視力もさらに強化、風の刃の待機状態にして追いかける。見失うわけにはいかない。僕は目を皿のようにしてウサギを捉え続ける。


(あぁもうっ!! 瞬きなんてしたら見逃してしまいそうな乱数的な動きをしやがってーー捉えた!!)


 腕を振って飛ばした不可視の刃は見事命中。相変わらず良心の呵責を感じる暇もない攻防だ。

 さて、手早く血抜きして解体したいが……まだやることがあるな。

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