第17話「少しの交渉と情報収集」

「村長、ジャガイモってありますか? あれば買いたいんですけど」

「ジャガイモ? なんだそりゃ」


 もしかして名称が違うのか? いや"悪魔の実”扱いという可能性も……それとも馬鈴薯ーーというか異世界特有の名前の可能性だってありうるか。


「えーと、大きさはこのくらいの茶色い芋ですね。日の当たる場所で放置してると芽が生えてきたり緑色に変色したり、食べると腹を下してしまったりする地中で育つ作物なんですが……」

「ああ、あの観賞用の作物か。うちの村にも何人か育ててる変わり者がいるぞ」


 確信はないが恐らくそれだろう。魔王軍遠征時の略奪物資の中で見たことあるし、実際に毒耐性のある魔獣の餌になっていた。重い罰則がなけれ拝借したんだが、軍事物資扱いだったしなあ……でも今は違う。


「ぜひ購入させて欲しいんですが」

「あんなものが欲しいのか? 変わってんなお前」


 そんな顔されるほど少数派なのか。異世界だと不遇だなジャガイモ。僕がしっかり活用してやるからな。


「あと油と塩を少々いただきたいですね」


 そう言うと村長は顎に手を当て、考えるように口を開いた。


「……すまないがどっちも少ない。渡せるほどの量はないな、やってくる行商人から買ってくれ」

「わかりました」


 さすがに村では貴重品過ぎるか。塩は生命線、油の使い道は思いつかないが量が少ないなら仕方ない。手間と希少性で価値がまだ高いのか、果たして……これはやってくる行商人が積載していることを祈ろう。まあ海側からくるから塩は安く仕入れられるし、必需品で腐らないから利益が少なくとも積んでると思うが……

 よし、最悪油の方はとれる植物を採取しよう、生成リストにあったはずだ。獣から油という方法も考えられるが、それは最終手段。完成品が獣臭そうだ。まあでも毛皮や死骸は使い道が多いはずだし、帰るときは狩りしつつ帰還するか。


「考えはまとまったか?」

「あ、はい」


 いかん、いつの間にか黙って考えていたらしい。今は色々と収集するために頭を使おう。


「他は何かあるか?」

「そうですね、あと新鮮な野菜類も欲しいですね。次の街まで2日と短い道のりですし」

「わかった適当に余剰分から見繕っておこう、それで大丈夫か?」

「基本的にはそれで。あ、種類はできるだけ多めにしてくれると嬉しいんですが」

「……まあそれぐらいなら問題ないな」

「ありがとうございます」

「で、あとは情報とか言ってたな? 何が知りたい?」


 相変わらず村長の威圧がすごい。前世で”人と話すときは相手の目を見るべきだ”と教育を受けたが、村長を見ると人によりけりだな。さっきみたいに時折目線を外して頭を回してもらえると助かる。心臓が縮まってしまう。

 でもこっちも色々と大変なんだ。そんな威圧に僕負けない。


「さっき聞いた街についてですね。どこ行きの船が出てるかとか、名物はなにかとか。あとここら辺の魔物の分布も知ってればお願いしますーーあ、ここら辺で気をつけないといけない風習とかあったりしますか? それと周辺領主の評判も聞きたいですね、これからの旅の計画に関わってくるので」

「……ずいぶん多いな」


 あのそんな顔せんでも……睨んでいるよう見えるからやめてもらいたい。ストレスさんが暴れる。まあ手間だとは同情しますが、こっちも金貨を払っていますんでどうかここは一つ。


「まあ金貨を貰ってるからな……知る限りのことは話そう」

「ありがとうございます」


 そこからは色々と有意義な話がたくさん聞けた。頭で整理するのが大変だったが、整理も記憶の定着も大丈夫ーーだと思う。

 街の名前は”ベルファスト”というらしい。その港湾都市を治めているのは侯爵様で、名前は覚えてないという。なんと大雑把な、これでいいのか地方にある村。

 魔物の分布は森の浅いところしか手に入らなかった。狼や熊、猪、野鳥などの野生生物。そして魔物化した野生生物や昆虫、ゴブリンやオークなどの亜人を筆頭に比較的弱い部類の存在しかいないらしい。


(恐らく奥地に行くと強力な種族や個体が現れるに違いない。魔素濃度にもよると思うが……)


 風習に関しては基本的に失礼がなければ大丈夫そうだ。さすが多くの種族集まる港町。貴族に対することだけ気をつけておけば問題はなさそうだ。まあ、街に入ることができればだが……

 ところが周辺領主の話になると一気にきな臭い。隣の子爵が無能らしく、治安が悪いと評判だという。名前は覚えていなく聞けなかったが、心に留めておこう。


(よし、あとは村長から銅貨をもらって村人各々から何か買うか……んー、行商人が来た時にやり取りした方が手間じゃないかもなあ)


 そう思って村長に聞いたら、その方が手間がかからなくて助かるとのこと。きっと普段の作業や仕事があるのだろう。こっちもわざわざ中断させてまで無理をさせる気は無い。もし良くない印象をいだかれたら事だ。


(よーし、とりあえず行商人が来るまでは狩りにでもいく振りして日中は村を離れよう。ついでにダンジョンの様子見がてら採取とか狩りとかでもーーあ、そうだ。あいつらのこと忘れてた……)

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