第16話「まずは旅人として交渉」

 連れていかれて会談場所、僕と村長は向かい合わせに座っている。そんな気はないのかもしれないが、マフィアのボスのようで圧迫感がある。なんか落ち着かない、内装は心を穏やかにしそうなのに……

 そんなこの部屋の第一印象は「村長の見た目と合わないな」という具合だった。前世でいうなら北欧家具のモデルルームみたいな感じで、小綺麗な具合だ。奧さんとかの趣味なのだろうか、お見かけはしていないが……


「で、水と食料だったな」

「あはい」

「水は井戸があるからそこから汲んでくれ。量が少ないなら家の水瓶からでも構わない」

「ありがとうございますーーあ、皮袋とか水を携帯できるものも売ってくれませんか?」

「……なに? お前どうやってここまで来たんだ?」


 村長の目がギラリと光る。これはタマが獲られそうな鋭さだ。


「えーとですね……」


 僕は重みのある視線に焦ったが ”盗賊と戦った際に紛失してしまった” と説明した。全部は嘘じゃない。現に野盗っぽい人と戦闘になったし、水がないのも本当だ。ただ本当のことをベースに嘘を展開させただけ。にわか知識の嘘つく方法だったが、効果はあったらしい。


「なるほどな、そりゃ災難だったな」


 どうやら信じてくれたようだ、よかったよかった。あとは安心の溜息を吐かないようにしないとな。


「ええ、まあーーで、売ってくださいますか?」

「ああ、手配しとこう」

「ありがとうございます」

「金はあるのか?」


 実際のレートは分からないが、報酬の金貨で十分なはずだ。念のために確認しておこう。


「金貨で不足するなら難しいですね」

「それなら大丈夫だ、この村にそんな高価なものはない」


 人間社会のことなので詳しい価値までは知らなかったが、金貨は思ったより大金のようだ。これは色々と買い付けることも可能なんじゃなかろうか。


「で、あとは食料だったな」

「はい」

「何が欲しい、保存食か?」


 ここはジャガイモと即答したい……だがしかしそれでは色々とおかしい、商人じゃないのになぜ未加工の食材を買うのか。僕だって考えればわかる。ここは基本的なものを買ってから、他のものも買い付けられるような流れを見つけよう。


「そうですね。長持ちするパンと干し肉、乾燥させた野菜なんかもあれば嬉しいですね」

「何日分だ?」

「お聞きした港のある街に行きたいので2日分ーーいえ、念のため3日分ください」

「なら6食分だな、それ位なら備蓄にも響かないし問題ない」

「ありがとうございます、いくらですか?」

「……そうだな。足元見て悪いが銀貨1ーーいや、大銅貨8枚だな」


 どうしよう、高いかどうか分からない。1食あたりの値段ってどんなもんなんだろう。足元見てるという発言から割高なのは分かるが、銀貨から大銅貨ってのは値下げなのか? 前世知識だとそうだ。ちくしょう、魔族の立場とか考えなくて戦場で聞き取りしとくんだったな……まあ恐らく多少下げてくれているはずーーでもこれはチャンスかもな。


「それで大丈夫ですよ。じゃあこれで」


 僕は巾着から金貨を一枚取り出して机の上に置いた。すると村長の雰囲気が変わる。考えるように腕を組み、眉間に力が宿った。


「……額が大きすぎる。釣りが出せねえ」


 なるほど読み通りだ。これならこっち主導権で色々言える、強気で攻めてみよう。しかし顔恐すぎやしないか村長。


「でしたら釣りはいりません」

「……なんだと?」


 その目で僕を見ないでくれ、毛根が死ぬ。


「ですがその代わりに情報と村で作っている物を多少いただきたいです」

「……食料はあまりやれんぞ」

「できる範囲で大丈夫です。それと村人個人個人からも聞きたり、なにか物を売ってもらいたかったりするので銅貨や大銅貨を頂ければ……」


 そこから少しの問答があったが、村人達にも金銭収入があるのは良いことだなと納得した。どうやらもうすぐ海上都市方面から行商人がやってくるので、息抜きさせてやりたいらしい。舶来品や保存食、村の生産物を買ってもらったりと、村の一大イベントのようだ。ぜひ僕も混ざりたい。打診してみるとそれまでの滞在も許可された。しかも村長宅に無償で宿泊させてくれるとのこと。随分と待遇良いですねと聞くと、どうやらお釣り不足分の補填らしい。

 さて、ここからは情報とジャガイモーーいや物資や触媒の調達だ。

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