第13話「さらばアリア様、また会う日まで」
「(そういえば……)アリア様、質問よろしいでしょうか?」
僕が努めて小さくした声で問いかけると、彼女もそれに応じてくれた。
「なんでしょう」
「なぜあのような状況に?」
「……」
アリア様は黙りこんで俯いてしまった。その様子からは言いたくないだけなのか、機密に関わることなのかは推察できない。分かったことと言えば僕には聞かせられない、という点だけだった。その理由は信頼の無さか、素性も知れないからかーーまあどっちもだろうな。
しかし、今後の方針のためにも聞いておきたい。森を抜けるまでは話しかけようにも警戒されたり、魔物に追われるなど悠長に会話している暇はなかったが、今ならまだ距離があるし大丈夫だ。
「言えない状況に置かれている。ということですか?」
「それは……」
判断しかねる曖昧な反応だ。もしこれが家督争いなどの政争に類する事態だったら、逃げどころがなくなるかもしれない。知ってしまった人間をほいほいと放流できるほど、貴族の争いは生易しくはないだろう。
「(これは褒章は断念して、フェードアウトできる内に撤退がいいかもな)言えないことなのでしたら大丈夫ですよ。貴族様の内情を探るような質問をして申し訳ありません」
「……感謝します」
「ですがこれだけはお答えていただきたいのですが、周囲に信用信頼できる人はいらっしゃいますか?」
「……ええ、多少は」
「それを聞いて安心しました」
よし、これで少なくとも引き渡し先がある。問題なく身柄をお渡しするなり、その人物が発見できたあとはアリア様の自主性に任せるなりして、「名乗るほどの者ではありません、先を急ぐので……」ってな具合にバシッとビシッと決めて退散しようーー
「来ましたね」
「あちらからですか?」
「そうです……」
彼女も僕にならうように息を殺す。だかしかし魔力を絞ったりはしていない、どうやら魔力操作などは不得手なようだ。一抹の不安はあるが、彼女自体の魔力はそう大きくはない。なので感知されても潜んでいる獣と誤認されるだろう。
「……あれはっ!!」
彼女は器用にも囁くように叫んだ。
「知り合いですか?」
「執事のグレイと、護衛騎士のフランですね」
「あの方達は信用できますか?」
「……その発言に腹を立てるくらいには」
どうやら怒らせてしまったらしい。凍るような目でこちらを睨みながらも、口だけは笑っている。
「大変失礼しました」
「分かればいいのです」
「……アリア様」
「なんでしょう」
「あのお二方がいらっしゃれば、僕はもう不要ということでしょうか」
「……そうですね」
ならば潮時だな。見たかぎり彼らは手練れ、魔族であることが看破する能力なり魔道具を所持しているだろう。今後の調達のために不安材料は増やしたくない。
「ならばここでお別れです」
「報酬はいらないと?」
「平民には過分かと」
「……そうですか」
「それに万が一にでも、問答無用で攻撃されたら命がいくつあっても足りなさそうだ」
「なるほど、あの二人ならありえそうです」
「(まじかよ)では見つからない内に。御前を失礼いたします」
僕はなんとなく失礼のないように頭を下げ、その場を去ろうとするとーーアリア様から声をかけられた。
「手持ちは少ないですが、感謝の気持ちです」
「こちらこそ感謝申し上げます。ではーー」
中身も確認せずにその場を離れた僕は、バレないように森の中を突き進む。そしてある程度まで離れると身体強化を使い、スピードをあげた。遅れた分を取り戻すように。
(……さて、ここまで離れれば大丈夫だろう)
ある程度の距離を稼いだ僕は、休憩がてら頂いた巾着の中身を確認した。質の良い袋の中に入っていたのは、まとまった数の金貨。少ないなんてとんでもない、ひと財産だ。
「良いことはするもんだなあ」
思わず呟いてしまうほど気分が良くなったので、僕は休憩を早々に切り上げた。そして程なくして村を発見した僕はまた呟くのだった。良いことはするもんだなあ、と。
それもそのはず。見えた村は門番や衛兵の類も確認できない、希望に合致したもの。僕は明るい未来を胸に、村へと突撃を開始した。
「待っていろよ、ジャガイモぉーー!!」
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