第11話「助けた少女は貴族のようだ」

「アーサー・ヴィカント・ガーフィールド・ロード サイモンが娘、アリアです。この身の救助と野盗の捕縛、褒めてつかわします」

「……えーと、勿体なきお言葉」


 全く知識のないものにも貴人と分からせる、そこまでの変貌だった。言葉使いや声のトーンは言うに及ばず、与える空気を指先に至るまで瞬時に変える。入れ替わったのかと思わせるほどの見事な猫を被りだ。まあ見た目からして成人前だが……


(でもさっきまでの乱れっぷりが頭をよぎるなあ……)

「……どうしました?」

「ああいえ、無礼を働いてしまったことを後悔していまして」

「功罪相償います。なので忘れてもらって結構」

「……感謝いたします」


 どうやら手柄と無礼を相殺して無かったことにされたようだ。おそらく忘れろ、これで貸し借りはないので褒章もやらない、よって何もなかった、ということだろう。ここら辺は頭脳派と謳っている高位魔族達と同じで助かる。脳筋ーー義理堅い武闘派だったらこうはいかないので、本当に助かった。歓待なんぞの流れになったら魔族とバレる確率がググンと上がるからな。


「ところで……なぜ生かしたまま?」


 彼女は男5人を冷たい目でとらえてそう言った。これは殺せという流れだろう。できれば避けたい、気が滅入るのはごめんだ。なんとかひねり出さなくては……


「背後関係は洗わなくてもいいのですか?」

「構いません」

「理由をお聞きしても?」

「なりません」

「(むう、取りつく島もない)……では生きたまま引き渡し、金子と引き換えーー」

「それは許可できません」

「(ならば……)ではご要望通り殺すことにいたいます」

「頼みます」

「やり方については任せてもらっても?」

「いいでしょう」


 よし、言質はとれたぞ。これで殺さなくて済むかもしれない。

 僕は細工をするために男達に近寄り、陣を描く。構成は捕縛維持、継続魔力は周囲の魔素から変換、防衛機能を織り込む。これなら1日2日で戻れば多少飢餓状態になるが、生きたまま解放できるだろう。あとは納得させればコンプリートだな。


「彼らには魔物達の生き餌になってもらいましょう」

「……趣味が悪いですね」

「貴族様を襲ったのです、恐怖と後悔を存分に味わってもらうとしましょう。すぐに殺して苦痛を与えないなど慈悲と変わりません」

「……なるほど」

(あれ? まさかこうゆうのに耐性ないのかな?)


 顔を青くしながらも強がる彼女は、年相応に幼く見える。少し震えながらも毅然とし、目元を潤ませながらも怜悧に保つ様は、色々といっぱいいっぱいそうだ。


######

あとがき(本文とは関係ありません)

アリアの言った長ったらしい名前は、昔の日本にあった並びを参考にしています。「本姓(氏、血統名)姓(役職称号、爵位※王から賜らないと無し)苗字、通称(官職+名前)、諱(真名※基本名乗らないので出てきません。出てくるのは親兄弟間での呼称か、王様など王族が口にするか、正式文書に表記されるくらいです)」の順番。あと幼名も考えています。※アリアは幼名です

無理くり横文字に置き換えているので、分かりにくいと思います。申し訳ありません。

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