第10話「いったい何なのだろうか」
衝撃を吸収して着地すると、入り乱れ過ぎて何言っているかわからない声達が耳を襲った。
「おいそこお前!! 礼はたっぷりするぜ、助けてくれ!!」
「早くこのツルをどうにかしてくれ!!」
「俺を一番に助けてくれ!! 根っこが食い込んで痛えよお!!」
「足がぁ!! 俺の足があぁああ!!」
「もが!! もがががあがあぁあ!!」
「お願いします私を助けてください!!」
どうしよう、一遍に言ってくるから誰の言葉も聞きとれない。とりあえず僕は死なれると寝覚めが悪くなりそうなので、採取してあった薬草を傷に当て止血した。毎回思うが魔素に満ち溢れているだけで、こうも効能に差があるのかと感動を覚えてしまう。
「た、助かったぜ、ついでにこのツルをどうにかしてくれないか?」
「俺たちも頼むぜ大将」
「大将、俺も」
「お、俺もだ」
「もががが、もっがー」
俺も俺もと声が上がるなか、僕はどうしたもんかと思った。まず殺すのは却下、気が滅入るから……全くすごいことだが義務教育が教えてくれた道徳観は、魔族に転生してから200年間いまだに機能している。殺伐とした異世界では枷になっているがーーってかこいつら僕が攻撃したと思っていないのか。単純過ぎないか、いや薬草で治療したからか? いやでも最初の反応から助けてくれだったしなあ。
「あの、私を助けてください!! そいつらは野盗です!!」
そう女性が声を上げると場は騒然となった。男達は罵倒に自己弁護、正当化しようとこいつが悪いんだと信じてくれと言い、この見てくれはファッションだ、服も買えない俺たち貧乏人の工夫だ言い張る。女性の方も負けじとこいつらに襲われた、逃げてきた、こんな人数の男達と山中で鬼ごっこする趣味はない、この状況はどうみても私が被害者です、と男達の声量に勝つ勢いで叫んだ。恐いくらいに。
(うーん、見た目で人を判断するのは良くはない。良くはないが臭いもきつく、見た目も野趣に溢れ過ぎ、大人数で女を追いかけていた野郎供と……見目が良く、元々小綺麗であったろう服をまとっていて、襲われていたであろう女性。んー、どちらを助たいかは傾きやすいなー……)
僕は感じる頭痛を手当てしながら魔術を使い、野郎共の口をツルや根っこで塞ぐよう操作した。モガモガと怨嗟ににじんだ声が聞こえるが、そう大音量でないので無視。さて、彼女から詳しい話を聞こう。
「あの、なんでこんなーー」
「なんで私を解放してくれないんですか!!」
「いやあ、まだ色々と納得しきれてないしーー」
「信じられない、かわいそうだとは思わないですか!!」
「いや思いますけどーー」
「だったら解放してください、今すぐに!!」
助けたくなくなってきてる、どうしよう。こっちの言いたいことが最後まで言えない。ああ前世でまともに議論もできなかった怒れる女性とのやりとりを思い出すなあ……うん、とりあえずは解放しよう。落ち着いてもらおう。
「わかりましたから、今から解放しますんで落ち着いてください。下手に暴れると怪我しますから、ね?」
「……わかりました」
僕は注意を払いつつツルや根っこを動かし、彼女のみを解放する。傷つけたらまた何言われるかわからないので慎重に、足をグネらないようにゆっくりと。
「……ありがとうございます」
「……いえいえー」
感謝の色が見えない素っ気ない御礼に、社交辞令的笑顔が光る。自信はないが仏頂面よりは何倍もマシな印象を与えるだろう、変な態度とって怒らせたら事だ。ストレスが多少溜まるが必要な心の傷だ、そう思うことにしよう。
そんな心に吹く冷たい風に折り合いをつけていると、彼女の雰囲気が変わった。
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