第9話「慎重な魔族の攻勢」
「待ちやがれ!!」
粗野な声に押し出されるように一人の少女が躍り出てきて、そしてそんな彼女を囲むように男たちも飛び出てきた。まるで狼の狩猟風景だ。囲みながら追い、退路を潰しては方向転換させて、先回りしては切り替えさせ、獲物を疲れさせる。
すでに彼女は足元がおぼついておらず、掠れた呼吸音を響かせている。初見の僕ですら限界なのだろうと容易に想像させるほどの困憊っぷりだ。
(あれでは逃げきれないだろうな……)
案の定、少女の足が鈍り男達に取り囲まれた。逃げようにも行く手を阻まれ、じりじりと間合いを詰められ、なぶるように囲む円を狭められる。
しかしここで思うことがあった。
(なんで一気に攻めない……)
何か彼女に特殊な力があるのか、油断できない強さなのか、はたまた単に悦に浸っているのか。理由は定かではないがこれはチャンスだ、襲っている連中の注意は彼女に注がれている。それに装備の質も悪く、魔術を専門に扱うもの者もいない。
(それに俯瞰できる位置から見ていたが、潜んでいる者や手練れもいないーーはずだ。もう一回探知を使えば何らかのアクションはあると思うが、それも相手の特性次第で確実性はない……ならば先制のメリットをいただこう)
僕は先手を取って数を減らすことを選んだ。素早く術を構成できて、手から離れる風刃の魔術を発動。そして潜伏場所を変える。もちろん魔力を絞り、目視さないように。
(さあ、一人足が飛ばされ戦闘不能になったがどうする。陣を描きながら観察させてもらうぞ)
男どもは騒ぎながら周囲を警戒し、少女は状況を理解できない様子。そして周辺からの魔力反応や探知などの揺らぎもなし、潜伏者の気配も感じられない。もし存在したとしたら相当な手練れだ、音もなく近づかれ攻撃を受けるだろう。
(だけどそんなレベルの奴は、あんな野盗連中と一緒に活動するとは思えない……いかんいかん、油断禁物だ)
そう考えているうちに陣は完成、後は魔力を注ぐだけの状態だ。今回は非魔力で描いたので奇襲性と隠密性に富んでいるが、手作業なので展開速度は遅くて威力もさほどないーーが彼らレベルなら十分。
統率しきれていない動き、バランスの悪い編成、それらを補う魔道具も持たず、互いに声をかけ連携もしない。
(回復薬すら携帯していないみたいだなーーおっといかん)
僕は彼女が人質に取られる前に魔力を流し、草木を操る陣術を発動。周囲の枝や根っこが意思を持ったように襲いかかり、間一髪全員拘束するのに成功。スムーズにことが運んだ。
(あとは潜伏者の可能性だが無視できるレベルかなー。でもまあ一応対策はしとくか)
僕は気分の乗らない悲鳴をBGMに魔力を解放。野太い声と抵抗の息遣いが耳に届きながら身体強化、黄色い悲鳴と悲嘆が響くなか攻勢反応結界の魔術をまとう。
(……とりあえずはこれでいいだろう)
最後に人族にちゃんと見えているか念のために確認し、阿鼻叫喚の現場に飛び降りた。
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