第8話「石橋を叩いてると思っている魔族」

(悲鳴か?)


 僕は反射的に身を隠し、魔力探知の魔術を使用。そして魔力を隠蔽せずに移動を開始し、音を立てずに潜伏場所を変え続ける。知恵のない魔物と誤認させるためだ。


(6つ反応が悲鳴の発生源だろう。襲われているのであれば先頭を移動してるのが悲鳴の主であり、連行されているのであれば中央、引きづられているならば後方のどれかだ)


 僕は移動しつつ得られた情報に頭を回したが、考えても答えはでない。やはり正確な情報を得るには進行方向に先回りして、自分の目で確かめる必要がある。だがこれは危険な行為だ。もし魔力の扱いに長けた者がいた場合、探知を使ったことはバレている。


(うーん、でも探知とか魔術を使ってこないってことは相手に魔術師はいないってことか? いやいや常時隠蔽を自身にかけているような変態斥候や暗殺者を忍ばせている可能性、魔道具持ちや付与装備持ちが居るという可能性もーー獣人はこの辺にいないはずだから、匂いで辿られる可能性は無視するとして……よし、目視されなければ大丈夫のはずだ)


 とりあえず僕は見晴らしのよい潜伏場所まで移動して、野生の魔物と同じように魔力を絞る。できるだけゆっくりと、探知できないレベルまで。


(これで能力は落ちるが目視と熱源探知、感覚強化などの魔力発動を見逃さない限りはーー)


 再び響き渡る悲鳴、そして声以外の音も耳に届き始めた。その方向と大きさからしてかなり近づいてきている。僕はどうしたものかと思いながら息を殺し、まだ見えない客人を捉えるように茂みから目を光らせた。

 余談だが、この時の僕は気づかなかった。進行方向からしてダンジョン発見の危険性は低い。なのになぜ知らぬ存ぜぬと、去ってしまわなかったのかを。

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