第6話「詭弁の果て」

 ずいっと近づいてくるスケルトンの顔。ただでさえ骨で怖いのに、静かな怒気をまとって迫ってくる。


「ぬか喜びです。てっきり何もかもが乏しい中、マスターと二人で力と知恵と合わせ困難を乗り越える……そんな、そんな燃える展開だと思ったのに」


「そんなこと一言もーー」


「いいですかマスター、コアはあなたの命なのですよ」


「わかってる」


「わかってません!!」


 いやわかってる、わかってるんだけど望郷の味が。200年食べてないんだ、いま食ったらきっと最高なんだーーと言ったら火に油なんだよなどうしよう。


「もっと防備を考えてください。こんな入り口入ってすぐにコアのある部屋なんて……これじゃただの洞窟と変わりませんーーいえ、それ以下です」


「……」


「せめてコアのある部屋までたどり着けないようにするべきです。もっとダンジョンを広くして迷路のようにするとか、特定の手順を踏まないと行くことが叶わない隠し部屋にするとか……色々と方法があるはずです」


 ぐうの音も出んな。確かに今のままでは心もとない、でも物資も魔力も圧倒的に足りないしーーそうだそれだ、それで言い訳が立つ。


 だがこの説教の流れを断ち切るのは難題だ。説得力を出さねばどんな話も詭弁に落ちる。まずは姿勢とまとう雰囲気だ。背筋を伸ばし、あごを引いて、声も主張を通るように張る。それを落ち着いたトーンで気取らず泰然に。そして返事も重要だ。適度に間を潰し、悩むそぶりを一切見せず、打てば響くように会話をする。


 そうすれば、ポテチが手に入るんだ!!


「スケルトン」


「……なんでしょう」


「人族の村に行くのは反対か?」


「はい、まずは防備を固めるべきかと」


「それはダンジョンを危険にさらす選択だ」


「……理由をお聞きしても?」


「わからないか? 現状物資と素材は圧倒的に不足している。それを解消しなければ、多くの魔力を対価にしなければならない。いいか、ここは人族の生存圏ーー敵地だ。膨大な魔力を運用すれば国に察知される可能性が跳ね上がる。なるべく危険は避けたい、まだ生まれたばかりのダンジョンだからな」


「……マスター」


「まあそれだけが理由じゃないけどな」


「なにか秘策があるのですか?」


「これだ」


 言いながらメニューを開く。デキる男のようにスマートに、流れるように、スケルトンにも見えるように生成一覧を表示した。


「これはいったい……」


「どうやら僕の生成できるものは特殊らしい、どれもこれも魔王国で見たことがない素材が要求されている。これらをうまく使えれば、このダンジョンは囮という役目から解放されるはずだ」


「囮、ですか?」


「僕は無能の烙印を押されて飛ばされたーーこんな辺鄙な場所に。期待されている役目は、人族の戦力を分散させる餌ってところだろう」


「いやまさかーー」


「スケルトン、お前は召喚された存在だ。そう思ってくれるのはありがたいが、その忠誠心は植え付けられたものだ」


「そんなことはありません」


「あるんだよ、ダンジョンってのはそうゆうシステムだ」


「だとしても、いまのこの心は私のものです。たとえ作られたものだとしても、この忠誠は本物です」


「……ありがとう」


「勿体なきお言葉」

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