第5話「話し合いは思わぬ方向に」

「マスター、常時念話の接続を許可しては頂けませんか?」


「ダメだ」


 プライバシーは大事だ。もちろん心のつながり、一体感も無視はしてはいけない。だが常時はさすがにダメだろう。気疲れなんてもんじゃない、摩耗する鬱になる。適度な距離感が大事なんだ。


 そんな苦悩に満ちた眉間のシワから見てとったのか、スケルトンは指示を受けた執事のように礼をして受諾してくれた。


「……残念ですが仕方ありません、マスターの意思に従います」


「そうしてくれ……」


 というか、用事を頼むためにこいつを呼んだんだった。全く、予想外の問題は想定できないから予定が狂う狂う。最初の目的に戻ろう、ポテチだジャガイモだ油で塩だ。


「頼みがある」


「何なりとご命令ください」


「このダンジョンの防衛ーーいや主に偽装を頼む」


「偽装、ですか?」


「そうだ。ただの白骨死体に擬態してこの魔剣を監視してくれ」


「あの転がっている魔剣を、ですか?」


「ああ、私物だから出来るかぎり盗られたくない。だから昔の大戦で亡くなった名もなき英雄になってくれ」


「……話が見えてこないのですが」


 確かに話を飛ばしすぎた。


「えっと、まず剣を手に持ったまま白骨死体に擬態してくれ」


「剣を持ったままーーああ、だから大戦の英雄と」


「そうだ。で、もしも何らかの偶然か探知かで魔剣を発見したものを排除してくれ」


「宝に目がくらみ、うつつを抜かして手に取ろうとした瞬間を狙う訳ですな?」


「その通りだ。だが勝てない奴には手を出さず、魔剣を持って帰らせろ」


「何もせずにマスターの所有物を奪われろと言うのですか?」


 悪巧みでねっとりとした和気藹々が一転、納得いかないという意思を示すスケルトン。忠誠心が故にってやつなのか? その気持ちは信頼に値するし嬉しいが、今回はよろしくない。


「いいか、勝てない相手には何もするな。一切の抵抗を認めないし、ただの白骨死体としてやりすごせ」


「理由を伺っても?」


「負けた場合、ここにはアンデットが存在すると判断される。そうすれば正義感あるものは調査し、脅威を排除しようと行動を開始するだろう。そうしたらコアが見つかる確率が高くなる」


「なるほど」


「それに万が一アンデットが居ると報告されたら厄介だ。調査隊、教会などのイカれ勢力が大挙してきたら現状対処できない」


「……なるほど。私の自分勝手な忠誠心で、マスターを殺してしまうところでした。申し訳ありません」


「気にするな」


「感謝いたします」


 表情もないのに分かる真摯な態度。声と挙動だけでこれほど伝わるとは、肉体なんて飾りかもしれないなーーいかんいかん、今は防衛についてだ。一応スケルトンは納得してくれたみたいだが、念のために裏付けもしとくか。しこりになったらシャレにならん。


「念のために計画に穴がないか確認させてくれ。魔剣を持って行かせたとして、この洞窟に満ちている魔力の気配ーーコアの存在を騙せると思うか?」


「可能かと思います。魔剣や人族の使う聖剣、多くの魔力付与された装備もそうですが、置かれている場所には属性に応じた魔力が満ちていきます」


「この魔剣の場合なら瘴気だな」


「その通りです」


「コアとこの魔剣から感じる魔力量の差については?」


「……問題ないかと、長い年月放置されたとしたら、魔力や瘴気もよどみます。分布に濃淡がでるのは常識、万が一それに意識が向いたとしても発生源は魔剣と思うでしょう」


「魔剣を持ち出した後も問題はない、とーーいや、浄化の類を使われたら厄介だな」


 同行者にもし聖職者が居たら、きっと浄化くらいは使っていくだろう……しかし考えれば考えるほど可能性が出てくる。不毛ではないがキリがない、どうしたものか。


「……マスター、疑問なのですが」


「なんだ?」


「計画を聞いていると、マスターの存在が影もカタチも……私が防衛している間、どちらにいらっしゃるのですか?」


「……人族の村に行く」


「……なんですと?」


「だから留守にするから今回の計画を練っている」


 そうか、確かに目的を言ってなかったーーん? スケルトンがプルプル震えている。分かりたくないがアレは怒っているのように見える。これはマズったな、何か言い訳と理論武装を構築しなければ……


「お言葉ですが、大変生意気を申しますが、不敬かと思いますが、説教をさせていただきます」

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