第4話「パッシブ念話はプライバシーの侵害」

 そんな会社の営業のようなお辞儀の応酬も終わると、スケルトンは胸に手を当て背筋を伸ばした。


「で、私は何をすればよいのでしょうか?」


「あ、えっとだなー」


 妙な気分だ。スケルトンが、アンデットがすごい人間臭い。転生してから得た情報と全く違う、下級アンデットは生者への憎しみあふれたイカれ野郎のはず。どうゆうことだ、ダンジョンで生まれた魔物は違うのか? それともこのスケルトンは下級ではなく中級ーーいや意識の明瞭さと受け答えから、かなり知性があるように見える。まさか上級ーー


「いえ、私は下級のスケルトンでございます。まあ、ただの下級アンデットではありませんが」


「そうなのかーーん?」


 思考が読まれている?


「読む、とは少し違います」


 読んでるじゃないか。


「いやまあ、結果そうなっています。ですが、これはダンジョンマスターをする上で必要な能力かと」


「どうゆうことだ?」


「意思のない魔物、意思の疎通のできない魔物を使役する際はかなり有益かと」


「なるほど」


 まあ確かに。同じ言語を介さない者とも意思疎通ができるのは素晴らしいーーってかこれも漏れているんだろうな。嫌だな、思考が読まれるのって。変に考えられないじゃないか。


「大丈夫です、不利益になるようなことは口外しません」


「そうゆう問題じゃあないんだよな……何かカットする方法はないのかーーってさすがメニュー様」


 表示されたのは意思疎通や命令に関するQ&A。なんかネットっぽい、まあ僕にとっては分かりやすいし助かっている。


 えっとなになに、最初に召喚した魔物は主人との素早い関係構築のため、命令や意思を忠実に理解するために意思疎通はデフォルトでオンになっています。意思疎通は後からオンオフすることが可能でありーーなんだカットできるのか、安心安心。それに個体ごとにも設定できて、相互なのか一方的に意思伝達する方式なのかも選べる。他にないのかーーっと、これがいいな。


「よし、電話とか通話みたいな方式にするぞ」


「どうゆうものなのですか?」


「実際にやりながら説明するから少し待ってくれ」


 そう言いながら僕は手早く設定した。Q&Aにリンクがあったのは苦笑ものだったが、便利なものは素晴らしい。


「うっし、意思疎通は相互だが制限をつけた」


「確かに、心の声が聞こえませんな」


「成功だな。じゃあ声が届かないところまで移動してから、意思疎通したいって念じてみてくれ」


「分かりました」


 そうスケルトンが返事するやいなや、音を立てて離れていった。そして程なくして着信音が頭に響いたーーって黒電話とか懐かしいなオイ。


「あのー、先ほどから奇妙な音が聞こえるのですがー」


 スケルトンが大声を出して戸惑っている。表情とかで分からないはずなのに伝わる、ちょっと面白いし意外と愛嬌あるな骨って。でもアンデットがみんなこうだと戸惑うなー、今まで手軽に補充できる駒って認識だったのに。これじゃあ、使い捨てにできない、良心が痛む。


 というか黒電話の音うるさいな。


「あのー、鳴り止まないのですがー。これはいったいどうしたらーー」


「あ、いけね」


 意識の中でスケルトンと話そうとすると着信音がやみ、相手の声が聞こえるようになった。


「おおー、やっと奇妙な音が鳴り止みましたぞー」


(今は大声出さなくても意思疎通できるぞ)


(おお、マスターの声が聞こえます)


(よし、ちゃんと機能してるな)


(ところで質問なのですが、先ほどの奇妙な音はいったい)


(相手に意思疎通ーー僕が分かりにくいからこれから念話って呼称する。でーその念話なんだが許可制にした。話したい相手が念話を受諾しない限り、あの音は鳴り続ける感じだ)


(……ではあの音はお伺いをしている音なんですな。で許可がおりなければ鳴り続け、念話はできないと)


(そんな感じだ)


(なるほど)


(よし、いったん念話切るぞ。今度は僕からかける)


(ん? 切るとはいっーー)


 よし、これなら思考は読まれない。プライバシーは確保された。やっぱり常に心を読む読まれるってのは良い気分じゃない。


「マスター、声が、念話が聞こえなくなったのですがー」


 どこか間延びした大声に「ああ、今度は僕からだったな」と思い、念話をかける。ってトゥルルルルとか懐かしいなテンション上がる。


「マスター、今度は違う奇妙な音がー」


 いや声張ってないで念話に出ろよスケルトン、念話の意味ないじゃん。


 それから僕は念話の仕方をちゃんと教え、誤作動がないかチェックした。うん、問題ないみたいだーージリリリリ。


「マスター、応答してください。もっと心を通わせ、お互いを理解しましょう」


「着拒にするぞテメー」


 ここで頭に浮かんだことがある。


 もしかしてスケルトンは思ったことを口に出しているから、僕に思考が流れてこなかったのでは。

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