新たな部屋

それからしばらく進む。

途中、曲がるところはあったけど、一本道で敵が出る事もなかった。

そして、照明用の魔石が少なくなったころ。


「ようやく扉が見えてきたぜ」

「正直、終点であってほしいな」


「鍵は無い。罠は…何かあるようだけど、どんな物かは分からない」


扉を調べたゴモンが言う。


「また中に罠があるとか?」

「その可能性が高いな。それとこの扉は手前に引く扉のようだ」

「それも怪しいな」

「押す扉と何が違うんだ?」

「可能性としては、扉の向こうから何か出てくる系」

「水攻めや押し流して落とし穴とかも考えられるな」


俺とゴモンは考えられる罠を例にあげていくが、推測の域は出ないので対応策も出てこない。


「リックの武器もないし、一度戻ってゴモンが蘇生ができるようにしておくか」

「リックはともかく、ゴモンは死んだら終わりだからな」

「俺は死んでもいいのか」

「そりゃ生き返るからな」


つい流れで連れてきたけど、リックは肉盾にしかならないぞ。


「ここは慎重を期して戻ろう」



「あ、戻ってきた。ワタルー、私ちょっと周辺の探索に、出ようと思うんだけど」


戻るとジェシカが待ち構えていた。ベンとモレスが一緒に居るので三人で行くのだろうか。


「周辺探索か、ならリックも連れて行ってくれ」


話すかたわら、視界の中でゴモンが玉に触って光ったのが見えた。

これでゴモンも復活できるな。


「俺が抜けても…大差ないか」

「ゴモンが蘇生できれば守らなくて済むから、どうとでもなると思う。リックの武器はちょっと特殊だから、自分で確認した方がいいだろ」

「だな」

「俺も短剣が欲しいから、武器屋には行くつもりだが、見つからなかったら俺と一緒に荷物持ちだからな」


モレスが使うのは短剣だから、たぶん見つかるんじゃないか?


「ああ、構わない」

「俺の分として、よく切れそうな刃物も頼む」

「トムスさんのお店に寄って探してこようか?」

「いや、武器屋とは方向が違うから、それはまた後で良いよ」

「そう言えば、その通路は調べ終わったの?」

「それなんだけど、結構な距離を進んだけど、まだなんだよ。どこに向かっているかもさっぱりだし」

「なら、お弟子さんに視てもらったら?」

「弟子? …いや弟子じゃないから。でも確かにゼーリンならわかるか?」


ゼーリンのスキルを話したわけではないけど、昨晩あれだけ地図だ測量だと騒いでいれば、もう皆わかっているんだな。



「謎の通路ですか、行きます。直ぐに準備しますから、ちょっと待っていてください」


それから間もなく、ゼーリンは自作の画板や地図をもって現れた。


「お待たせしました、僕は皆さんの後ろをついていきますね」


俺はゴモン、トムスと顔を見合わせた、まあいいかと目で交わしてから歩き出した。


「ふむふむ、この教会からこの方向に…」

「101,102,103,104……」

『あれは何をしているんだい?』

『たぶん、歩数で距離を測っているのでは?』


そうして再びドアの前に戻る。


「えっと、まあっ直ぐで曲がって曲がって…ここだな。この場所はハンターギルドの地下ですね」


ゼーリンが手製の地図を指でなぞりながら、何度も確認してからハンターギルドの地下だと断言した。


「ハンターギルドとは?」

「ハンターギルドはハンター連中が、出入りしていた場所だが、俺たちには縁が無かったから詳細はわからないな」


うーん、依頼の発注とか、酒場があったりする、ありがちな感じか?


「それじゃ扉を開けようか。ゼーリ…ンの奴は既に下がっているな」


直前まで傍にいたのに、もう10メートル以上離れていたよ。


「じゃあ開けるぜ」

「了解」

「おう」


ゴモンは扉のノブを掴み、一歩下がるようにして引き開けた。

ヒュオン


「うわっ」


ゴモンが扉を開けた瞬間、正面から巨大な刃物が突き出て、ゴモンの眼前まで迫ったが、そこから上へと軌道を変えて廊下の天井に当たり、そこからまた室内へと戻る。


「振り子だ、また来るぞ」


ゴモンが言って、更に下がる。


俺は入れ替わるように前に出ると、槍の柄で刃物を吊るしているロープを止める。

刃物は薙刀のように切っ先の方が大きなタイプの剣だった。先端が重い方が、直進性が高くなるからこの形なのかな。それと、振り子にするためか、柄の部分は少し長く短い薙刀のようにも見える。


「この剣、いや薙刀?それなりに鋭いけどトムス、刀術で使えるか」

「ちょっと貸してくれ」


トムスが薙刀モドキを振って感触を試す。


「悪くないが、柄が半端に長いな」

「適当な長さで切ったらどうだ」

「それもそうだな」


トムスはナイフで薙刀の柄を20センチ程残して切り落とした。

後でリックに柄を作ってもらえば、良い感じになるだろう。


そして俺たちは扉の奥へと進んだ。


「暗いな」

「例の明かりはあるけど、魔石がほとんどないから、今魔法で明かりをつけるよ『光球』」


魔法名を言うと俺の視界に+印が現れた。

これで場所を指定しろという事だろうか?

天井に+を合わせて意識を集中すると、そこに光る球が現れた。

今まで気にしていなかったけど、戦闘中もコレあったのかな?




「………調理場か?」

「そんな感じだね」

「何だか拍子抜けだね」


光球で照らされた部屋には、大小さまざまな鍋や釜が置かれ、作業台や鍋で煮るためのかまども設置されていたので、確かに調理場としても使えるだろう。

作業台と思われる大きな台には、天秤ばかりや漏斗に何種類もの匙など、テレビや雑誌のレシピ解説で指示される、細かな分量にも対応できそうだ。しかし、ビーカーと試験管やシャーレと攪拌(かくはん)用のガラス棒まであれば、ここがただの調理場ではないとわかるだろう。


「ここはおそらく錬金術の工房だろうな。あとでペプスを連れてこよう」

「へえ錬金術ってこんな所でやるんだ」

「測量士用の工房は無いですかね」


測量士用ってなんだ?製図台みたいな台と、各種定規にコンパスや分度器とかか?この世界にそこまで精密なものが、あるのかなあ。


「ワタル、出入口がもう一つある」

「行ってみよう、ゴモン」

「あいよ、…鍵無し、罠も無さそう。開けるぞ」


ゴモンが扉の右に立ち、片手をノブへと伸ばす。

俺は扉の左の壁に隠れるようにして、ゴモンが開けるのを待つ。

トムスは、扉の正面を避けて少し離れた位置に立ち、ゼーリンは入ってきた入り口まで後退している。

あいつは、戦力にはならないから、まあいいか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る