ゴモンの覚醒

「リック、悪いけどリンドを呼んできてもらえないか」


興奮で自分の声が上擦っているのがわかる。


「わかった呼んでくる」

「なあ、ここは何なんだ」


俺は棚から羊皮紙の束を取って、中身を見ていく。


「ゴモン、ここは魔法の巻物や魔導書を作るための工房だよ。これを見てみろ、これは全部魔法を記した巻物の見本だ」


勿論、高スキルのプレイヤーが作るような、高等な魔法や魔導書グリモは無いのだろうけど、それでも俺が持っていない新しい魔法もあるだろうし、何よりここであれば安全に増産することができる。


「ワタルさん用って何?」

「リンド、製本家としての意見を聞きたい。ここの設備を使って魔導書グリモや魔法の巻物を作れるか」

「え…」


リンドは室内のあちらこちらを見て回り、備品の一つひとつを確認していく。


「できるよ。これだけの設備があれば魔導書グリモは問題ないと思う。魔法も初級魔法なら問題なく作れると思うけど…。でも私の腕では魔導書作成の成功率は30%ぐらいだし、初級魔法も70%位かな。正直言って素材のロスが凄く出ると思うの…」


リンドは説明してくれたが、最後の方は申し訳なさそうな表情になっていた。


「腕ってつまりはスキルだろ、いくつ位必要なんだ?」

「そうね、確実に作るには初級で3中級で5上級なら8かな。更にレベルが上がれば作成した物に魔力低減効果とかつくはずよ」

「なるほど、そう甘くはないという事か。でも俺たちは皆、高いスキルでも精々3だし、スキル上げにコストがかかるものもあるわけだからね。リンドのスキルもその類だから、これは仕方がない事さ。別にリンドが悪いわけじゃないよ」

「そう言ってもらえると、ちょっと安心した。ありがとう」


そうそう都合よくは行くはずもないか。それでも今ある巻物は使えるわけだから、それについては即効性のある収穫だったよな。にしてもスキルレベルの上限はいくつだ?リンドの口ぶりからすると、10レベル上限にも思えるが、プレイヤーはもっと高い可能性もあるか?


「ワタル、それでこの後はどうする?ゴモンが通路の先を調べたいそうだぞ」

「ちょっと待ってくれ、折角だから魔法を追加したい」


俺は置かれた巻物を鑑定しながらその全てを調べる。

そこにあった魔法は…。


火弾(3巻) 火の弾丸 貫通力がある

土球(5巻) 土を球にして飛ばす

水球(7巻) 水を球にして飛ばす 

氷弾(2巻) 氷の弾丸 貫通力がある

解毒(2巻) 解毒ができる

光球(3巻) 光の球を作る 維持コスト毎時魔力5

火球(5巻) 火を球にして飛ばす

回復(5巻) 対象を癒す

召喚(1巻) アンダイン


なんか一つだけ明らかに系統の違うものが混じっているんだけど…。

アンダインてなんだ?


「リンド、この中で作れるのはどれだ」

「えーとアンダイン以外は、全部初級だから一応作れるわ」

「召喚アンダインは中級なのか?」

「いえ、中級にそんな魔法は無かったと思うし、上級は属性の複合魔法だったと思うわ」

「俺の鑑定でも詳細は不明なんだよな」

「何だか分からないけど、新しいのは全部ワタルさんの魔導書に入れちゃえば?」

「まあ俺しか魔法使っていないしな」


…俺以外は難易度が適用されるらしいから、初級でも容易くはない。俺が登録すれば一番早く使えるんだよな。


「わかった、それも登録する。リンドと、それからペプスも魔導書グリモを作って、練習してみてくれ」

「いいの?」

「多分、二人は魔法の適性が高いと思うから」

「ならやってみる」


ゴモン・リック・トムスと合流し、地下通路を進む。

照明のあった部屋から真っ暗な通路に入ると、一層暗く感じるな。


「ワタル、ここにさっきの明かりはないのか」


通路の照明か、この地下に限定すれば地上にはない設備がある可能性はあるな。


「ゴモン、さっき壁にあった丸いのはあるか」

「少し待ってくれ、今調べる…似ているが、これはどうだ?」


ゴモンが指し示す場所、床から50センチほどの場所だが、そこに先の制御装置に似た物体があった。


鑑定…。


…ふむ、人感型照明制御装置か。

……ここだけ世界観が、おかしくないか?


「これも制御装置の一種だな」

「そんな所にあったら押しにくいだろうに」

「いや、これはちょっと違うんだよ」


オークの魔石で魔力を充填する。

魔石が心もとなくなってきたな。蘇生用にもっと集めたいから、ゴブリンやオークの様な手ごろな奴なら来てくれてもいいかも。


充填が終わると、通路の天井に明かりが灯るが、こちらは歩くために必要な最低限の光量だな。


「また、あちこちツンツンしながら行くぞ」

「ワタルはシーフでもないのによく知っているな」

「ああ、俺の兄貴は冒険譚が好きでさ、本を集めていたから俺もよく読ませてもらったよ。こういう探索ではシーフの存在が不可欠だよな」

「高価な本に、シーフまで書かれていたのか」

「剣の腕がどれほど凄くても、罠にかかったら終わりなんだから、シーフ抜きの地下探索なんてあり得ないだろ」


少なくともTRPGのリプレイでは、必ずシーフが居てシーフ次第で、パーティー全滅もあったもんな。シーフの技術と性格はすんごい大事だと思うよ。


「実は俺、シーフと言えずに今まで物乞いのふりをしていたんだ」


え、もしかして偽装の理由、それ?


「そんなの事を気にしていたのか」

「そんな事って、シーフと言えば盗みが得意の、犯罪者ってイメージが普通じゃないか」

「手は物を盗まないし、剣は人を殺さない。盗むのも殺すのも人間だよ、剣士の技術が人を守るなら、シーフの技術も人を守るためにある。俺はそう思っている」


俺、今ちょっとかっこいい事言った気がするぞ。


「そうか、だったら俺が全ての罠から、お前らを守って見せるぜ」


ゴモンが晴れやかな笑顔で告げてきたので、きっと彼の中で何かが吹っ切れたのだろうな。

あ、ゴモンの職業表示から物乞いの文字が消えて、シーフに変わったぞ。


ゴモン シーフ 開錠3 罠術4 索敵3 忍び足3 探索3


しかも、全てのスキルが一段階上がっている!

え、何、これどう言う事!?

どうしよう、これは話すべきか?

だけど、ゴモンのスキル構成を知っていたのは俺だけだから、この後普通に『ゴモンスゲー』でも良い気もする。

むしろ急に上がったとか、無用な混乱を招きかねないよな。

よし、俺は何も見なかった、そういう事にしよう。

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