教会の地下へ

夜間は何人かで交代しながら夜番をすることになった。

ま、夜番と言っても外に出るわけではなく、教会の中で外の物音を気にしているぐらいだ。


その日の晩は何事もなく過ぎ、よく朝を迎えた。


「朝食はこれだけね」


渡された朝食は、里芋の様な芋二つだった。

皮をむいて食べるとねっとりとした食感で、味はスイートポテトのように甘い芋かった。


「これは何ていう芋なんだ」

「これ?これはサトー芋よ」


この世界、日本産のゲームが元か?


「そうか、この甘さは凄いな」

「サトー芋はあまくておいしいよねー」


ミネアちゃんもご機嫌だ。


「サトー芋は、お菓子作りにも使われるのよ」


お菓子作りというか、この芋を潰せばそのまま餡子になりそうだ。


俺は神官服から初期装備に着替え、ゴモンたちと共に礼拝堂の仕掛けの前に居た。


「後はこの神像を動かすだけか」


神像は台座の上に乗った翼のある女性の様な像だが、上から下まで合わせると3メートル弱はありそうな石の像なので、果たして動かせるかどうか。


「俺たちで押してみるから、ゴモンは少し離れていてくれ」

「俺はまだ玉を触らない方がいいのか?」

「何らかの条件付けがあるかもしれないからな。これが終わるまでは待っていて欲しい。その代わり、最大限リスクは減らすから」

「わかった」


俺、リック、トムスの三人で像を押すと、像がゆっくりスライドし、像があった場所の床に、地下へ下りる階段が出現した。


「奥は暗いな、せめて燭台を持って降りるか」


トムスが燭台をもち、俺たちは地下へ下りるが、それでも視界が利く範囲は狭い

槍の石突で壁や床を叩き、音を確認しながら慎重に進む。

石作りの階段を二階分ほど降りると、直進する通路と上に上がる階段が現れた。


「階段の先に扉があるが、教会の隠し部屋と言ったところか?」

「位置的にはそうだろうな」

「ゴモン、罠はありそうか」

「調べてみる…あるぞ、開けると針が出る」

「武器庫と同じタイプか。解除できるか」

「この穴にクサビを打ち込んでしまえば、針は出ない」


ゴモンはドアノブにある小さな穴に、細い棒を打ち込み穴を塞ぎ、その上から間にかを塗っていく。


「こいつは温めると硬化する樹液だ、こいつを塗ってしまえばクサビは取れなくなるはずだ」


樹液をろうそくで温め硬化させてから、鍵を解除する。


「開けると中から何か飛び出す仕掛けもあるかもしれないから、ドアの正面には立たない方がいい」

「念のため、俺が開けよう。みんなは下がってくれ」


俺たちはドアの前から下がり、リックがノブを握りそっと押し開き、直ぐに閉めた。

ガツ

部屋の中から、床を打つような音がして、顔を見合わせる。


「もう一度やるぞ」


ドアをそっと開き止めるが、今度は音がしない。

そのままリックがそっと押し開けると、ドアが何かにぶつかる。

明かりを近づけて確認すると、ドアの前に斧が刺さっていた。


「不用意に開けると、斧が襲ってくるしかけか」

「二段構えとは、なかなかの殺意だね」


斧を槍で突き倒し、ドアを開けたら床との隙間にクサビを挿して、ドアが閉まらないようにしてから中へ。

床を槍で突きながら部屋の中を見回す。


「天井が落ちてくるとか、上から槍が出てくるとかはなさそうだな」

「それはだいぶエグイ罠だな。ワタルの居たところじゃ、そんな罠が普通なのか」

「俺自身は体験したことは無いよ…冒険者の記録など見ると、そんなのがあったけどね」


もちろんゲームや映画の中の話なんだけどね。


部屋の中は暗く、持ち込んだ蝋燭がぼんやりと室内を照らす。

どうやら窓がないらしい。

壁にはぎっしり棚が組まれ、何かが置かれているらしいようすが、暗闇の濃淡となってうかがえた。

また、腰高の位置には机か作業台が置かれているように見える。

蝋燭を動かし室内を見ていると、部屋の中央付近の中空に、蝋燭の光を反射するものが見えた。


「何か空中にあるな」

「あれは…天井から皿の様な物が、ぶら下がっているように見えるね」

「皿?…あ、確かに。まるで照明器具みたいだな」

「ランプの様な物か?」


正確には丸い皿の中央に、玉を置いた形を上下逆さにしたようで、電球と笠のように…見えるというか、もうそれにしか見えないというか…。


そう思い、改めて入り口わきを見ると、小さな玉が壁に埋め込まれていた。

…まさか、本当に? これを触ると照明が付くの?

そうだ、こんな時こそ鑑定だ。


鑑定 玉

玉 照明制御装置(魔力切れ)


鑑定 照明っぽい物

照明っぽい物 発光クリスタル


発光クリスタル…つまり、LEC照明器具とでもいうのか?


「ちょっと明かりをつけられるか試したいので、部屋の一度外に出てもらえるか」


一旦全員で外に出ると、オークの魔石を頭陀袋から取り出して、階段から壁の制御装置に魔石を当てる。すると制御装置がうっすら光りだして、しばらくすると魔石が割れた。

続けて二つの魔石を吸わせてところで、魔石は割れずに残った。


「これで補充完了だと思うけど」


魔石を仕舞って、制御装置に触れるが、何も起きない。

ならばと、制御装置を押してみたところ、玉は壁の中に少し埋まり、室内が明るく照らし出され、眩しさとなつかしさの様な物を感じた。


「おお、何だこの明るさは」

「まるで昼間のよじゃないか」

「こんな仕掛けがあったなんて」


リック、トムス、ゴモンが照明装置に驚いている時、俺は室内の様子に目を奪われていた。

それというのも、棚の一面に積んである物の大半が様々な皮や紙で、作業台の上には定規や裁断機、羽ペンやインク壺の様な物が置かれている。また別の棚は本棚になっていて、何冊かの魔導書グリモや羊皮紙の束が確認できた。

そして最後の一面には大量の巻物が積まれていた。

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