トリガー

「リックさんの料理、僕は好きですよ。あとで作り方教えてください」

「マリク君、兄さんの料理は邪道だから、やめておきなさい」


そんな話をしていると続々と人が集まり、最後にゴモンとトムスがやってきて、全員がそろう。燭台に火が灯り異国情緒あふれる食事となった。

更に。


「今日は、これも出しちゃうわよ」


そう言ってジェシカが装飾の施された壺をテーブルに置いた。


「酒か!」

「ワインが飲めるなんて、こっちに来て正解だったぜ」


モレスとゴモンが喜色満面で声を上げると、ジェシカが得意げに続けた。


「床下にあるワイン貯蔵庫を見つけたから、折に触れて出してあげられるわ」


…ワイン貯蔵庫なんてあったんだ。

くそう俺の節穴アイが恨めしいぜ。

ジェシカは探索系のスキルなんて持っていないけど、だからと言って見つけられないとか言うことは無いのか。考えてみれば、スキルが無ければ料理できなかったら、ほとんどの人が生きられないわけで、なんていうかスキルの有無は素人とプロの線引きぐらいに、考えれば良いのかな。


「ピケットは無いから、マリク君は薄い水割りで良い?ミネアちゃんは砂糖入りの酢水にワインを香り付け程度ね」

「「はい」」


見れば他の人も水差しから加水して、ワインと水を1:1~1:3で飲んでいた。日本ではワインを割って飲むことは少ないが、ヨーロッパでは一般的と聞いたことがあるから、大人の飲み方はその類なのだろう。マリクもその延長線上として、ミネアの酢水と言うのは何だろうか? 


※安全な飲み水の無かった時代、ヨーロッパでは貧富の差に応じて、ワイン>ピケット>酢入りの水と言う感じで飲まれていたそうです。酢を入れるのはちょっとワインっぽい味になるからで、殺菌効果が知られていたわけではありませんが、この世界では殺菌が目的のようです。


俺も1:1で割ったワインを飲んだが、意外とうまかった。

惜しむらくは、適温より少し温度が高かった事だろうか。


「む、焼肉うめええ。リックのステーキと違ってクセがなく、肉の旨味を引き立てる香草も良い感じだ」

「悔しいが今はまだジェシカには及ばないか。だが、俺の男料理はいずれジェシカを凌駕するはずだ」

「いや、そこで無駄に張り合わなくても良いだろ、お前大工なんだし」

「狩人の俺としちゃあ、リックの料理は野営向きだと思うぜ」


俺にとっての異世界初の夜はそうして和やかに過ぎていった。




一方その頃。


航達の和気藹々わきあいあいとした状況とは裏腹に、地下下水路の一角では、三人の男が不満を口にしていた。


「漸くあいつら出て行たな」

「まったく、いきなり俺たちのアジトに押しかけやがって」

「ボスも何であんな奴らを、好きにさせていたんだ?」

「トムスとモレスは、ちったあヤリそうだったけど、武器が無きゃ怖い相手じゃなかったよな」

「何より、四人も女が居たのによ」

「だよな…あれ? 女は五人じゃなかったか」

「馬鹿言え、一人は勘定に入らねえよ」

「そうだぜ、年増じゃ話にならねえや」

「「え?」」


三人は、黒狼盗賊団と呼ばれる町盗賊のグループに属し、地下下水路は彼らの住処となっていた。ゲーム時代はこの盗賊団を壊滅させることで、隠し部屋にある財宝を手に入れることができるが、同時に別のクエスト(個人)を経て、大規模なイベントをひきおこすトリガーになる可能性があった。


また、本来は盗賊団の構成員はもっと多いのだが、プレイヤーによる討伐があったため、幸か不幸か小人数しかリポップしていなかった。



同刻、下水路内隠し部屋。


「い、いやああああ、こ、こないでえ」


ベゼット(21)と呼ばれていた若い女が、必死に後ずさって男から逃れようとしていた。

男の手には血の滴る剣が握られ、背後には異様な祭壇とそこに供えられた、女の首があった。

首だけとなった女は、宿屋勤務兼娼婦のアーネン(23)で、ここへ来てからは盗賊ボスの情婦になっていた。

そして、ベゼットを無言で追い詰める男、黒狼盗賊団の首領ボース(35)は、焦点の定まらぬ目をしながら、何事か呟きよたよたと歩いていた。


「が、がみ…に、くもづを…ぐも…つを…」

「あ、開けてえええええ、誰か助けてええええ」


必至に助けを求め扉を叩くが、隠し部屋は下水路のさらに下、地下深くにあってその声は誰にも届かない。


「いやあああああああ がふっ」


下腹部を突かれ、そのまま上へと腹を切り裂かれた女は、臓物と血の海に倒れた。

男はその臓物を食らい血を啜る。

すると、男の顔に生気が戻り、その顔…いや全身に奇妙な文様が浮かぶ。


「時は満ちた。今こそ我が神の降臨する時ぞ」


ボースの、正体は東の森奥に住むという蛮族の一人であり、邪神教の導師でもあった。

はじめの供物を神(邪神)の祭壇に捧げ、次なる供物を自らの内に在りし神の分身へ捧げる。

そうすることで、邪神の加護を得た蛮族は大きな力を振るうことができるが、供物が滞れば逆に力を失い生ける屍のようになってしまうのだ。


「先ずは我が一族を、この地へ呼ぶとするか」


そう呟いて、ボースは隠し部屋を後にした。

数分後、新たに三つの死体を地下下水路に増やしたボースは地下を出て東の森へと姿を消したのだった。


死んだ五人。

アーネン23 宿従業員 副業娼婦 話術1 

ベゼット21 接客(ホステス) 給仕1 話術2 

コブン26 盗掘士 探索3 罠感知2 罠術2 短剣術2  

モブス17 ごろつき 威圧1 格闘1 スリ1

チピラーノ18  ごろつき 威圧1 格闘1 短剣術1


以下裏設定。

この設定は、ゲームだった時のものとなります。


クエスト名 広場の決闘

広場で屋台をしていた女性が、言い寄る男に怪我をさせてしまった。

仲裁に入ったあなたは、男と決闘をすることに!

依頼人ジェシカ 

報酬 一日に3本串焼肉無料 

アイテム名 ジェシカの串焼肉 

効果 スタミナ回復(小)


クエスト名 トムスの依頼

いつも肉を卸してくれる狩人が、二日も帰らないんだ、森に行って探してくれないか。

依頼人トムス 

報酬 アイテム

アイテム名 牛刀   

備考 解体時アイテム出現率5%上昇


クエスト名 リタの依頼

主人が行方不明なんです。森へ探しに行ってください。

依頼人リタ 

報酬 装備品

アイテム名 皮鎧 

備考 回避5%上昇


クエスト名 逃げた羊を捕まえろ

羊が魔物に驚いて逃げ出したんです。捕まえるのを手伝って。

依頼人マリク 

報酬 アイテム

アイテム名 毛玉×20 

備考 必須スキル:テイム


クエスト名 噂話を集めろ

僕は歌にできそうな話を集めているんだ、何かあったら聞かせて。

依頼人エイブラム 

報酬 噂一つ200$

アイテム名  

備考 必須スキル:話術


クエスト名 海賊の盗伐

寝ている間に、大事な船が盗まれた。取り返すのを手伝ってくれ。

依頼人モレス 

報酬 5,000$

アイテム名  

備考 モレスが死ぬと失敗になる


クエスト名 薬草の納品

薬草を店より高く買い取るよ

依頼人ペプス 

報酬 薬草一つ50$

アイテム名  

備考 


クエスト名 地図を集めて

色々な地図が欲しいんだ、でも偽物はだめだよ。

依頼人ゼーリン 

報酬 地図一つ2,000$

アイテム名  

備考 


クエスト名 馬車の捜索

うちのお得意さんが野盗に馬車を奪われた。取り返してくれないか。

依頼人ヘイジ 

報酬 3,000$ 別途報奨金あり

アイテム名  

備考 野盗灰鼠の殲滅


クエスト名 猫を探して

お隣の猫が逃げちゃったの、探してくれない?

依頼人ミネア

報酬 3%割引券及び懸賞金15,000$

アイテム名 3%割引券 ネアが店番しているときのみ使用可

備考 戦闘有 


クエスト名 教会の噂

教会って秘密の場所につながっているんだって、お客さんが言っていたの。

依頼人ベゼット 

報酬 

アイテム名  

備考 シーフが居れば隠し部屋を…。


クエスト名 スリを捕まえて

財布が無いわ、さっきぶつかったあの男よ

依頼人女A

報酬 200$

アイテム名  

備考 モブスを捕まえろ


クエスト名 盗賊団の殲滅

地下におかしな連中が住み着いた、排除してくれないか。

依頼人町役人

報酬 50,000$

アイテム名  

備考 ボスを逃すとクエスト『襲撃』発生 

   『襲撃』で町に被害が出るとイベント『邪神教』発生


※ 町と部族の村の距離は徒歩三日

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