四の死と異世界のオタク 

裏口を出ると、リックが土を掘り返していた。

井戸の水は出たのかな?

リックに声を掛けようとすると、そばにペプスが立って、何やら説明していた。


「二人は何をしているんだい?」

「おお、ワタル君。この教会を開放してくれてありがとう。この裏庭は凄いよ、今はだいぶ荒れてしまっているけど、元は薬草畑だったみたいなんだよ。数は少ないけど何種類かの薬草が手に入ったよ」

「それじゃあポーションが?」

「残念ながら、それは道具がないと無理だよ。でも薬草があれば怪我の治療にも役立つよ」


ペプスは錬金術師でポーション作成1と薬草学3を持っている。

ベンの怪我は結果的には俺が治したわけだが、ここの薬草があれば、あそこまで悪化する事なく彼が治療できたという事なのだろう。


「それは朗報ですね。生き返れるといっても、怪我で苦しむのは嫌ですし、だからと言って自殺するのも何か違いますからね」


俺は毒消しをケチって死にはしたけど、他の人にそれを強要するつもりはない。

……いや、リックやエイブラムなら、それもアリか?


「で、リックは何を?」

「ああ、薬草の株分けをしようと思ってね。畑を作ってもらっているんだ」

「なるほど、それはいいですね」

「あ、居たいた。ワタルさんその服洗うから、とりあえずこれ着て。鎧も傷みが無いか確認するからね」


三人で話しているところに現れたのは、服屋の店員だったジーン。

彼女は服飾作成2を持っている。

今いるメンバーの中では普通の町人に思えるが、服飾と言うのは決して簡単ではない。ましてや俺にとっての服は戦闘服と同義なので、きちんとした腕のある人が居るのはありがたい。それにジーンとリタ(革職人 革加工2 革細工2)が組めば、皮鎧の作成や修繕が可能だろう。


「ありがとう。じゃあ、ちょっと着替えてくる」


教会内にもどり、着替える場所を探す。

いくつかある寝室を覗くがベッドの手入れ中だったので、他を探す。

いっそ、武器庫の中で良いか。

そう思って武器庫へ向かうと。


「また開かない」


閉めておいたらまたロックがかかったようだ。

これは後で、ゴモンに開けてもらおう。


ならばと、他の場所を探すが、食堂(休憩室)と執務室、事務室も人が作業していたので、鐘撞堂に上って着替える事にした。

上着と靴を脱いで股引またびきに手をかける。

股引きは、スキニーパンツのようにピッチピチなので脱ぐのが少し大変だ。


「ワタルさん、これ、この地図は何ですか!」


手にギルドハウスの地図を持ったゼーリンが、興奮した様子で鐘撞堂へ駆けあがってきた。

地図出したまんまだったか。


「え、それ?、それはここで見つけた地図だけど。一応ハンターが拠点としていた家の場所を示す地図らしいよ」

「ハンターの家!素晴らしい」

「そ、そうかい?」

「僕は昔から地図が大好きだったのです。自分で町の地図を描いたり、測量したり、世界を描き記し、また一枚の地図から世界を知る。地図はロマンなんです。ああ、でもこの場所は僕の知らない場所だ、何か手掛かりがあれば…」

「その地図を挟んでいた本に座標が書いてあったけど?」

「座標!それは直ぐに確認しなくては!その本は何処ですか、直ぐ確認しましょう」


そう言って、ゼーリンが俺の腕を引く。

俺の足には中途半端に下ろした股引きがあり…。


「またかぁぁぁぁ」

「え!うわぁぁぁ」


今回は俺の叫び声と重なって、もう一つの声があがった。



「階段落ちのプロは弟子をとりたいの?」

「ベテランは認めたけど、まだプロの域には無いと思っている」

「僕もその道で弟子入りするつもりはないかな」


今、俺たちはジェシカの前で、二人ともパンツ一枚という姿を晒し正座中だ。

俺たちの死体は階段をもつれて落ち、ゼーリンの上に俺が乗るという酷い状態になった。

さらに、蘇生によって俺の死体は全裸となり、カオスな状態になった。

そして蘇生された全裸のゼーリンが俺の全裸死体を押しのけようとする、超カオスな状態に進化し、女性陣から何か奇妙な悲鳴が上がったが、それは忘れよう。


ゼーリンの奴は、その言動から分るように、地図オタクだ。別の言い方をすれば地図マニアと言っても過言ではないだろう。しかも地図好きが高じたのか、測量2 地図作成2 地図解析2をもつ測量士という、プロ地図マニアだ。

 

「全ては不幸な事故だ。俺たちを吊るし上げても、得る物は無いぞ」


ジェシカは『ああもう』と言って額を押さえた。


「まあいいわ、そろそろ食事もできるから、食堂へ行きましょう」


食堂は元々あったテーブルに加えて、事務室の机が並べてあった。

その他にも礼拝堂にあった長椅子を持ち込んであって、それは床に座ってテーブル代わりにするようだ。

テーブルやその代用品を駆使して、引っ越してきた全員分の皿が並べられ、合間に燭台が置かれて、ローソクが据えられていた。既にリックやペプス、マリクにモレスといった、一仕事を終えた面子が席に着き、エイブラムは部屋の隅で琵琶びわに似た小さな楽器を弾いていた。世界観的に、あれがリュートという楽器だろうか。

無理に一度に食べなくても良いような気がしたが、映画や他の媒体で描かれる全寮制の学校や、宗教施設・孤児院などの共同生活では、大体皆そろって食事をしていた事を思い出し、そういうスタイルが一般的なのだろうと一人納得する。


「裏庭に生えていた野菜(半野草)とオーク肉のスープ、それとオークのコロコロ焼きよ」

「リック以上の料理スキル持ちが作る料理、楽しみだな」

「ふふ、焼肉は期待して損はさせないと思うわ。スープの方はまあ普通よ」


スープは所謂塩スープって感じかな。ブイヨンを作る材料も時間も無いだろうから、これは仕方がないな。


「…スープと言えば、結局ベンは何も食べずに出てきたのか?」

「あ、そうよね、元気だったから忘れていたわ。兄さんが、お肉もって行って、その後どうなったのかしら?」

「それなら俺が作って食べさせたぞ、お前たちを呼んだのはその後だ」

「へえ、結局何を作ったんだ?」

「芋を潰した粥だ」

「思っていた以上に、病人にやさしい料理だった!」

「お前、俺を馬鹿だと思っていないか」

「馬鹿ではないが、考え無しかもとは思った。それに普通は、肉を持って行って、芋料理作るとは思わないだろ」

「それはまあ、否定できない部分はある」

「自覚はあったのか」

「まあな」

「リックさんの料理、僕は好きですよ。あとで作り方教えてください」

「マリク君、兄さんの料理は邪道だから、やめておきなさい」

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